約束の日 ( 5 / 6 )
「え? もう日取りが決まったの?」
朔の言葉に驚く。
「ええ、兄上と、九郎殿と、弁慶殿で話し合ったようよ。
一応あれでも陰陽師の端くれだから、良き日を占ったらしいわ」
散策から帰って、朔に「しゅうげん」の報告にきたら、もう広間では式の打ち合わせが始まっているという。
「で、でも私、まだ誰にも何も……」
ぷっと朔が吹き出した。
「あのね、望美。あなたが途中で具合が悪くなったらまずいからって、二人の後を八葉の何人かがつけていたらしいのよ」
「ええっ?!!」
今日一日の行状を思い出して、私は耳まで赤くなった。
「九郎殿や兄上は結構早めに引き上げてきたんだけど、朱雀の二人はきっちり最後まで見届けて、『二人が祝言を挙げるのは間違いない』って。
まあ、傍目にもわかりやすかったのね、今日の二人は」
(そ、そりゃあ、あれだけベタベタしていれば……)
恥ずかしさに思わずうつむいてしまう。
「それで望美、譲殿は何ですって?」
優しい声で、朔が尋ねてくれた。
下を向いたまま、それに答える。
「……結婚……してくださいって」
「それが望美の世界での言葉なのね」
あっと顔を上げた。
「ご、ごめん。私、こっちでもそう言うと思って」
「大丈夫よ。意味はちゃんとわかるわ」
にっこり微笑まれて、また赤くなる。
「……あのね、朔、私たちの世界ではこんな歳で結婚する人はあまりいないの。
20歳になるまでは、未成年って言って、親に保護されている子供なんだよ。
だから、正直、ちょっと戸惑ってるけど……」
「……私は、もとの世界に戻っても、譲殿と望美は『結婚』すると思うわ。
時期はもう少し後かもしれないけど」
いつの間にか、朔が励ますように手を握ってくれていた。
「大丈夫よ、望美。どの世界でも、本当に大切なのは相手を慕う気持ち。
あなた方の気持ちは本物だと思うわ」
「朔……」
誰にも言えなかった、少し不安な気持ちをほぐしてもらえてうれしかった。
多分、私たちの世界でだって、自信満々で結婚する人なんていない。
少しの不安を抱えながら、でもその何十倍、何百倍の愛しい気持ちを抱えて一緒の人生に踏み出していくのだろう。
* * *
ふわっと身体が浮いた気がした。
部屋の柱に寄りかかったまま、うたた寝してしまったらしい。
目を開けると譲くんが私を抱き上げていた。
「……譲……くん?」
「起こしちゃってすみません。でも、布団に入って寝ないと風邪ひきますから」
そのまま茵に運ばれ、衾を掛けられる。
「……だめだよ。起きて譲くんを待っていようって思ったんだから……」
「話なら明日の朝、できますよ。今日は結構歩いたし、疲れたでしょう」
髪を撫でられると、抗いがたい眠気が襲ってくる。
「……だめ……。プロポーズされた日くらいちゃんと……」
譲くんの手が止まった。
「ちゃんと?」
ああ、なんでこんなに眠いんだろう。
重くてだるい腕を何とか譲くんの首に巻き付ける。
「先ぱ……?」
言いかけた唇にそっとキスをする。
「……今日、一度もできなかったから……」
「先輩……」
「だい……すき……」
柔らかく抱きしめられて、そのまま眠りの世界に落ちていった。
譲くんが何度もキスしてくれているのが、ぼんやりとわかった。
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