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桜色の季節 ( 3 / 3 )

 


「ん…」

目蓋がぴくんと動いて、望美が身じろぎする。

「…先輩」

そっとささやいてみる。

すると、唇の端が少し上がった。

「…うん…」

「…すみません。俺、待たせちゃったみたいですね」

寝ぼけ眼がゆっくりと開く。

譲と目が合うと、ふんわりと微笑んだ。

「…先輩?」

「よかった…。譲くん、今日は少しうれしそう」

「え?」

「いつも、桜の中ではちょっと哀しそうだったから」

「!」




「もしかして桜、嫌いなのかなって思ってたの。違った?」

「桜は嫌いですよ。でも、大好きでもあります」

「…?」

望美が不思議そうに首を傾げる。

譲は微笑んで言った。

「少なくともこの春の桜は、とても好きです」

「そう…なんだ。よかった。嫌いだったら、とんでもない仕事だもんね、お花見の場所取りなんて」

「確かに」

お互いに顔を見合わせて笑う。




「それにしても、結構な時間寝てしまったみたいですね。身ぐるみ剥がされなかったのは奇蹟だな」

身の回りを確かめながら、譲が言った。

「あ、リズ先生が結界を張ってくれたんだよ。私が入るときに、一回解いてくれたの」

「ああ、それなら安心……って、そんなことできるなら場所取りなんていらないんじゃないですか!?」

「あれ? ほんとだ」

望美が不思議そうに考え込む。




(どうやら本当に、俺のために作ってくれた機会だったんだな…)

譲は心の中が温かくなる気がした。

自分とはまったく関係のない世界。

けれどそこに、自分のことを考えてくれる人たちがいる。




「あ、譲くん、お昼食べちゃおうよ」

望美が明るく言った。

「朔が作ってくれたんだよ。私はあんまり手伝えなかったけど」

「先輩、何をしたんですか?」

「かまどの焚き付けと、水汲みと、野菜洗い」

(見事だ、朔!)

譲が心の中でグッジョブサインを出していると、ざわざわと声が近づいて来た。




「なんだ、おまえたち、今ごろ昼餉か?」

「あはは〜、ちょっと早く来すぎたかな〜」

「それもまた運命」

「ああ、望美さん、口に入れたものを食べ終わってからあいさつしてくださればいいんですよ」

「わはりまひた、べんへいはん」

「望美、だからあいさつは後でいいのよ」

「神子、私も食べる〜」




満開の桜の下、春の宴は和やかに始まった。



 

 
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