蔵の中 ( 3 / 4 )
「…で…、ここの片付けはいつ終わるんだ?」
さっぱり仕事が進んでいない蔵の中を見て、将臣が言った。
傾きかけた夕陽が、古ぼけた家具や箱に金色の光を投げ掛けている。
「き…今日は調子が出なかったから。明日にはもっと進むよ」
「おまえなあ、望美なんか呼んでたら進むわけないだろう」
呆れたように言われて、譲は赤面した。
「先輩は手伝いにきてくれたんだから、そんなこと言うなよ」
「手伝ったのか?」
ぐっと言葉に詰まる。
「……微妙に…」
「何だそりゃ」
ふうっとひとつ溜め息をつくと、将臣が言った。
「よし、おまえの邪魔をしないように、明日の日曜は俺が望美を連れ出す。おまえはその間にちゃっちゃと片付けを進めろよ」
「に、兄さん! そんなの駄目だ!」
動転した譲の声がひっくり返る。
やれやれという顔の将臣。
「映画見るくらいいいだろう。だいたい、今さらあいつが浮気なんかするかよ」
「今さらって、浮気って何だよ。先輩は別に自由だし……と、とにかく二人で映画なんて絶対に駄目だ!」
「おまえ、望美を自由にしたいのか、縛りたいのか、どっちなんだよ」
譲が拳を握って俯いたのを見て、将臣は少し言いすぎたと後悔した。
* * *
「え〜? 今日は将臣君も一緒なの?」
朝から張り切ってやってきた望美が、素っ頓狂な声を上げる。
「おまえら二人じゃ進まねえからな。俺がいればいちゃいちゃも控えるだろう?」
「「…!!」」
(ゆ、譲くん、何でバレてるの?)
(やっぱり、あまりに仕事が進まなかったからじゃないでしょうか…)
(そ、そうか。失敗……)
「ほら、譲はあの右奥から順番に外に運び出せ。望美はこっちの食器類を桐箱から出して、縁側に並べろ。俺が順番に見て行くから」
テキパキと指示を出し、それぞれの得意な仕事を割り当てていく様子に、譲も望美も舌を巻いた。
あっと言う間に蔵の中が整理され、フリーマーケットで人気を集めそうな品が次々と選び出されていく。
蔵の奥で顔を寄せあった二人は、こそこそと言葉を交わす。
「いまひとつ実感なかったんだけど」
「そうですね。俺も」
「おい、そこ、何話してるんだ?」
サボリをとがめた将臣に、二人同時に言った。
「「さすが還内府!」」
「!!」
んなこと言ってないでとっとと働け〜!という怒声が、有川家の庭に響いた。
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