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当たり前のこと ( 2 / 7 )

 



「私は……怖いんです。
いつか譲くんが、私のために大ケガをするんじゃないかって…。
それがものすごく怖い……」

胸の中にたまっていた想いを吐き出す。

いつからか私をとらえ始めた、とてつもなく大きな不安。

「…そうか」

景時さんは深くうなずいた。

林の中で見つけた古い切り株に腰掛けながら、私たちは話していた。

「譲くんは昔から結構心配性で、年下なのに何かと私の面倒を見ようとしてくれました。
でも私たちの世界では、命に関わることなんて滅多になかったから」




(先輩、そんな薄着じゃ風邪ひきますよ)

(おばさんから預かってきたんです。辞書、忘れたでしょう?)




「最初はいつもの通り、譲くんがかばってくれたり、気を遣ってくれるのを当たり前のことのように思っていたんです。でも」




(先輩! 逃げて…!!)

(あなたを見捨てるなんて絶対にできない…!)




「身を投げ出すようにかばってくれたり、血を流すことが増えてきて、だんだん……いたたまれなくなって…」

必死で我慢していたのに、ついにポロリと涙がこぼれてしまった。

譲くんはちっとも悪くない。だから彼にはそんなこと言えない。

でも、私はつらくてたまらないのだ。




「望美ちゃん、きみの気持ちは分かるよ。譲くんはケガも多いし」

景時さんの優しい声が聞こえてきた。

私はコクンとうなずく。

現代から来た譲くんを、不慣れな戦場に引っ張り出してしまったのだ。

ケガの責任は私にある。




「まあ、八葉の中で、戦闘中に敵よりもきみを見ているのは譲くんぐらいだからね〜。
無理はないんだけど」

「え?」

意外な言葉に、思わず顔を上げた。

景時さんが困ったような顔をして微笑んでいる。

「あ〜、やっぱり気づいてなかった? 
彼、望美ちゃんのことばかり気遣って見てるんだよね。
だから当然攻撃も受けやすい訳で」

「そんな…!」

私は拳を握って立ち上がった。

「やめさせなきゃ! そんなこと!!」

「の、望美ちゃん?」

景時さんが目をパチクリさせていた。

どうやら彼は、そういうことを言いたかった訳ではないらしい。

だけど、聞いてしまったからには黙っていられない。

「景時さん、ありがとうございました。私、譲くんに言ってきます」

「い、いや、そんな…」

くるりと背中を向けると、陣に向かって走り出した。

後ろで景時さんが気弱に何か言っていたような気もするけれど…。






 
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