当たり前のこと ( 3 / 7 )
「え? 先輩、どういうことですか?」
頭に包帯代わりの布を巻いた譲くんが、やっぱり目をパチクリさせて尋ねた。
ちなみに、私の姿を見て布を外そうとしたのを、「絶対にダメ!」と止めた後のことだ。
「だから、戦闘中に私を見るのはやめて!」
私はもう一度きっぱりと言った。
一瞬沈黙した後、やっと意味が伝わったのか、彼はひどく傷ついた顔になった。
「先輩…」
「生きるか死ぬかの戦場で、敵から目を離すなんて自殺行為だよ。
そんなことで譲くんに傷ついてほしくない!
だからもう、私のことを気にするのはやめて。
敵を見て、倒すことだけを考えて!」
私は必死で訴えた。
「俺は」
「譲くんがケガするのは、自分がケガするのよりずっとつらいの! 本当だよ」
「…!」
譲くんが目を見開いた。
そんなこと、考えもしなかったんだろう。
私の目を見て、嘘を言ってるんじゃないとわかってくれたらしい。
「…わかりました」
と目を伏せ、そのまま背を向けて行ってしまった。
傷つけてしまったと思う。
でも、それが私の本当の気持ちだから。
* * *
最初はぎこちなかった。
つい、私のほうを見てしまうことも多くて、その度私は
「譲くん、前!」「譲くん、敵を!」
と、容赦なく叫んだ。
しぶしぶ視線を怨霊に戻し、弓に気持ちを集中させる。
矢の命中率はどんどん上がっていった。
彼がケガをすることも減った。
敵を確実に倒すことが、私を守ることにもつながると思ってくれたのかもしれない。
そのうち、戦闘時の動きに迷いはなくなった。
これで私の不安も拭われる。
そう思っていた矢先…。
「うわあっ…!!」
目の前に火花が散った。
激痛が走り、途端に息ができなくなる。
痛みと、酸素不足であっという間に目の前が暗くなった。
苦しい…!!と叫びながら、深い闇の中に落ちていく。
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