当たり前のこと ( 1 / 7 )

 



いつからか当たり前のように思っていた。




「えええいい!!」

剣が一閃すると、凄まじい怒号とともに巨大な怨霊が光に飲まれていく。

「やった!」

「危ない!!」

力強い手が私の肩を引き寄せた。

次の瞬間、今立っていた場所にドウッと天井が落ちてくる。

怨霊が暴れたため、建物自体が損傷していたのだ。

「!」

「早く外へ!!」

次々と落ちてくる木材や瓦から私を守るように肩を抱き、足下を気遣いながら出口を目指して走る。

薄暗い堂内から飛び出すと、ほどなくメリメリという音とともに建物自体がひしゃげ、倒壊した。

もうもうと上がる埃を避けるため、少し離れた林の中までもう一度走る。



* * *



木漏れ日の降り注ぐ緑陰の中、ようやく息をついた。

彼は、私の肩を離す。

「大丈夫ですか? どこか痛いところはありませんか?」

そう問い掛ける額に、一筋血が流れていた。

「譲くん! 血が…!」

「え?」

ポケットからハンカチを取り出し、そっと拭う。

おそらく、天井からの落下物が当たったのだろう。

傷口に布が触れると、わずかに顔をしかめた。

「ごめんね、私をかばってくれたからだね」

「そんなこと…! それより先輩はケガはありませんか?」

私は首を左右に振る。

譲くんと一緒にいて、私がケガすることはまずない。

いつも彼が盾になってくれるから。




「望美さん! 無事ですか?」

弁慶さんの声がする。

それを合図にしたように、八葉の仲間が駆け寄ってきた。

「譲! ケガをしたのか」

九郎さんが私たちの姿を見て慌てたように言う。

「ほんのかすり傷です。それより九郎さん、この後は?」

「今日はここまでです。思ったより進むことができましたからね」

弁慶さんが譲くんの問いに穏やかに答えると、私の横に跪いた。

「さあ、望美さん、僕に譲くんの手当てをさせてくれますか」

「は、はい」

血のにじむハンカチごと譲くんを委ねると、私はその場を離れた。




「きみがいると譲くんは、どんなに痛くてもそう言ってくれませんからね」

以前、弁慶さんにそう言われたことがある。

それから治療の現場には、なるべく居合わせないようにしている。




ふうっと溜め息をついた。

たまらなく不安だ。

でも、それをうまく伝えることが出来ない。

足下の小枝を軽く蹴飛ばす。

いったいどうすれば……

「望美ちゃん? どうしたんだい?」

突然声をかけられて、私は全身をビクンと震わせた。

振り向くと、驚いた顔の景時さんが立っていた。