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火傷 ( 3 / 3 )
さらさら さらさら せせらぎのような感覚。 (あれ? 私、川に手をいれていたんだっけ…?)
すぐに、冷たい水の感触が私の手を包み込む。 少し痛み出していた右手をひんやりと冷やしてくれる水。 「ん…気持ちいい……」 思わずつぶやくと、誰かの手がそっと前髪を撫でた。 安心して眠りに落ちる。 その夜、私は何度かそんな経験をした。
* * *
「…先輩? どうですか?」 いつもよりずっと小さい、気遣わしげな声で譲君が呼んでいた。 「ん…?」 目を開けると、心配そうに覗き込んでいる。 「? なんだっけ…?」
ふっと彼の頬が緩んだ。 「手ですよ。右手」 「あっ、そうか」 起き上がって鉢の中から手を出す。 「………」 「………」 「………」 「……大丈夫みたい」 はあっと大きな溜め息が聞こえる。
「よかった。水ぶくれもないようだし、きっと2、3日もすれば治りますよ」 「ありがとう、譲君」 正面から目を見てお礼を言うと、譲君が赤くなってうろたえた。 「お、俺は別に何も」 「だって…」
傍らの鉢に手を入れると、まだひんやりと冷たい。 「夜に入れた水がまだ冷たいわけないもの。譲君、何度も取り替えてくれたんでしょ? 眠くてお礼が言えなくてごめん」 「先輩…」 「では、念のため僕に診せてもらえますか」 いつの間に入ってきたのか、弁慶さんが微笑みながら言った。
* * *
「ったく、ドジもたいがいにしろよ、望美」 「おまえは神子としての自覚がなさすぎる」 「俺としちゃ、姫君の白魚の指が守れたことが何よりだけどね」 「2、3日は剣を握らないようにしてください、望美さん。弱っている皮膚が破けてしまいますからね」 「いや〜、でもたいしたことがなくてよかったよ、ほんと」 「神子、この椀は熱い。右手で持たぬよう気をつけてくれ」 「今はゆっくりと身体を休めなさい。それもまた修行」
朝餉の席で八葉のみんなからいろいろ言われながら、「なんで昨日は誰も来なかったんだろう?」と、素朴な疑問を抱いた。
あとで朔に聞いてみると、 「将臣殿が『譲は火傷に関する特別な治療法を習得しているから大丈夫だ。ただし、今晩一晩は誰も近づくな』って、みんなに言ったのよ」 と、教えてくれた。 あれが特別な治療法だったのかよくわからないが、そのまま譲君に伝えると、なぜか真っ赤になって将臣君の部屋のほうに消えていった。
しかし……と、私は自分の手を見る。 「もう二度と、料理はさせてくれないだろうな」 譲君のきっぱりした表情を思い浮かべて、私は大きな溜め息をついた。
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