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火傷 ( 2 / 3 )

 

「さあ、どうぞ」

目の前で湯気をたてる野菜たっぷりのおじや。

片手しか使えない私のため、膳を三段重ねた上に椀を乗せてくれている。

「ありがとう、譲君! いただきます」

と、元気に言うや否や、

「あちちちちちち」

と、悲鳴を上げてしまった。



「うわ、先輩!」

譲君が飛んでくる。

木さじにたっぷり乗せたおじやを、膝の上に落としたのだ。

手桶の水に手ぬぐいを浸し、すぐ冷やしたので大事にはいたらなかったが、譲君が完全に黙り込んでしまった。

「…あの〜」

「先輩はもう自分で食べちゃだめです」

「へ?」



弁解させてもらうなら、私はもちろん抵抗した。

いくらお腹がすいていても、私にだって恥じらいはある。

あるが……ものすごくお腹がすいていたのだ。



結局、片手を手桶につっこみ、膝に濡れ手ぬぐいを乗せた私は

「あ〜ん」

と、口を開けて譲君に食べさせてもらうはめになった。

「あわてて食べるから」

と、しっかり冷ましたおじやが、ゆっくり口に運ばれる。

この上口の中まで火傷したら、金輪際温かい料理は食べさせてもらえないだろう。



「譲君もちゃんと食べなきゃ」

「先輩の食事が終わったら食べます。二度目のショックで食欲がどこかに吹き飛んでしまいました」

「ご、ごめんなさい」

「はい、しっかり口を開けて」

「あ〜ん」

抵抗はしたのだ……。


* * *


「まだ辛いですか?」

もう5時間以上も手桶に手を入れている。

そっと出してみると、痛みはひいた……気がするのに、5分もするとジンジンと痛み出す。

「駄目みたい。譲君、もう部屋に戻っていいよ。私、朝までこうしてるから」

「そういうわけにはいきません。先輩も休まないと」

立ち上がって辺りを見渡すと、

「ちょっと待っててください」

と、奥に姿を消した。



しばらくして、薄い敷物や着物を持って戻ってくる。

「ちょっとここに横になってみてもらえますか?」

床の上に敷物を広げて、私を手招きした。

手桶ごと移動して、言われるままに横になってみる。

「それだと手の位置が高いかな。寝にくいですか?」

「う〜ん、ちょっと肩が凝りそう」



譲君が平らな鉢に水を入れて持ってくる。

「これならどうですか?」

私たちはさんざんいろんなポーズや容器を試してみて、やっと手を水に入れたまま眠れそうなしつらえを完成させた。



「ありがとう! もう大丈夫。こんなに遅くまでごめんね」

「いえ。じゃあ、明日の朝、起こしにきますから」

譲君はそう言うと、自分の部屋に戻って行った。


ふうっと大きく溜め息をついて横になる。

あっと言う間に睡魔が襲ってきた。

やっぱりかなり疲れていたらしい。

手が水の中に浸っている不思議な感触を楽しみながら、私は眠りについた。

 

 
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