再会のあと ( 2 / 4 )
睫毛が震え、眉間に皺が寄る。
はっと息をのむ声とともに、望美が目を開けた。
時刻はすでに昼過ぎ。
少し離れて矢の手入れをしていた譲は、気配に気づき枕元に急いだ。
「先輩?」
「!? 譲くん…!!」
何かを探していた目が、譲を捉えて大きく開かれる。
「だいじょ……」
譲の言葉は、突然重なった望美の唇に遮られた。
「!??」
両腕を譲の首に回し、すがるように口づける望美。
最初のショックからさめると、譲は望美の背中を支え、上体を起こさせた。
姿勢を楽にするためだが、望美はそれには気づかず、何度も何度もキスを繰り返す。
譲が本当にそこにいることを確かめるように。
柔らかく、温かい最愛の人の唇に触れられるうち、何かが譲の中で弾けた。
うなじと腰に手を回し、望美を強く抱き寄せる。
一瞬目を見交わした後、今度は譲から唇を重ねた。
望美がうっとりと目を閉じる。
あふれるほどの愛おしさを込めて、時に優しく、時に深く。
お互いにとっての初めての口づけは、いつまでもいつまでも続いた。
* * *
「……譲くん」
譲の胸にもたれながら、望美が静かに口を開く。
「将臣くんを呼んでくれる?」
「え?」
意外な名前を告げられて、譲は腕の中の望美を見つめた。
「譲くんと将臣くんに大切な話があるの」
まっすぐで真剣な眼差し。
先ほどのリズヴァーンの言葉が甦る。
「……わかりました。すぐに呼んできます」
立ち上がりかけた譲を制し、
「身支度するから、30分くらい後にしてくれる?
お庭の花壇の当たりで待ち合わせよう」
と言う。
「そんな、先輩はまだ寝ていないと…!」
「とても大切な話だから、ちゃんと伝えたいの。
わがまま言ってごめんね。でも、お願い」
またあのまっすぐな眼差し。
その目に抵抗できるわけがなく、
「……わかりました。でも、話が終わったらまた休んでくださいね。
無理はしないでください」
と答えた。
「うん」とうなずく望美に、もう一度軽くキスをする。
「!!」
「……先輩、今ごろ赤くなるんですね」
「ゆ、譲くんの意地悪!」
真っ赤になって上目遣いににらむ望美を見て、譲はやっと胸を撫で下ろした。
いつもの望美が、そこにいたから。
* * *
「ここからが一番大切なことだよ」
望美は譲をまっすぐに見つめて言った。
「清盛が私を狙った時、譲くんは絶対に私をかばっちゃだめだよ、
絶対に!」
「どうしてですか!?」
「でないと、譲くんの命が危ないんだよ!」
「そんな! 夢では、俺がかばわないとあなたのほうが--」
「大丈夫だよ。私は十分気をつけるから。
何が起こるかわかってるんだから、危なくなんてないよ」
望美はやはり「源氏の神子」だった。
その衝撃と、与える影響に打ちのめされていた将臣は、望美と譲の会話にようやく注意を向けた。
(………? なんだ? 今……)
目の前では、望美が頬を紅潮させて必死で主張している。
「お願いだから、今回だけは私の言うことを聞いて!」
「……でも!」
「お願い、譲くん!」
「……先輩……」
ほどなく、譲は白旗を揚げた。
そもそも、この弟が望美に勝てたことなどない。
真意はともかく、望美の言葉に従うという結論になったようだった。
その間も、将臣は必死に自分の中の違和感の原因を探っていた。
「……………………」
「兄さん、どうしたんだ? 黙り込んでしまって」
無言を貫く将臣に気づいて、譲が声をかける。
「……いや、お前がこの手のお告げの類を素直に聞くとはな。
珍しいこともあるもんだと思っただけだ」
軽口を装いながら、将臣は望美の様子を目の端で追った。
緊張して、青ざめた顔。
額にはうっすらと汗が浮かび、唇をときどき噛み締める。
(そうか、たぶん……いや、やっぱりそうなんだな)
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