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桃虎参上 ( 3 / 6 )

 



「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

目の毒もいいところ。

どうやら、着ている服を脱ぎ終わったところで力尽きたらしい。

見るまいとしても見えてしまう。

白い肌、流れるような身体のライン。

想像よりもずっと美しく、触れずにはいられないほど魅力的な…。

譲ははっとわれに返った。

駄目だ駄目だ。

恋人同士なんだから、ちゃんとお互いに意識があるところで堂々とすればいいじゃないか(何を?)。

何やら力強く心の中で宣言し、ベッドの下に落ちているシャツを拾って望美に着せようとする。

なるべく触らないようにするなら、頭からズボッとかぶせるのが一番だが、それにしても少しは身体を持ち上げないとならない。

ど、どこに手をかければいいんだ。

逡巡しているうちに、ふと悪戯心がわいた。



* * *



「う…う〜ん……」

望美がうなり声をあげる。

(しまった、やりすぎたかな)と譲が身を起こすと、今にも寝返りをうちそうな様子。

焦りまくって、勢いよくTシャツを頭からかぶせた。

何か見えたような見えないような、あいまいなところで望美の身体はかろうじて覆われた。

「痛〜い……」

荒っぽい着替えに、抗議の声が上がる。

「す、すみません、先輩。どこかぶつけましたか?」

心配して覗き込むと、こちらをぼんやりと見上げた。

「……譲くん……?」

「はい。大丈夫ですか? よければ、袖から手を出してみてください」

「……?……」

うまく話が通じないので、譲は仕方なく袖から手を入れて、余計なところに触らないようにしながら望美の腕を引っ張り出す。

望美の身体の下から布団を引き抜いて、上からかけると、やっと寝る用意が整った。

「じゃあ先輩、ゆっくりやすんでくださいね」

まだぼーっとしている望美に声をかけると、彼女は唐突に微笑んだ。

子供のような無邪気な笑顔に、ドキンと譲の胸が高鳴る。

「あのね、あのね、譲くん……大好き!」

心からうれしそうな言葉。

「先輩……」

望美は、微笑みを浮かべたまますーっと寝息をたてはじめる。

ひとり残された譲は、真っ赤になった顔をどうすることもできず、押し入れを開けて自分の寝支度を始めた。

幸せをかみしめながら。




戦場で過ごした日々は、譲に一種独特な勘を身につけさせた。

迫り来る災厄や殺気、そういったものを直前に察知し、身を躱す反射神経。

そういうわけで、その時も危うく身体を起こしたまさにその場所を、望美が駆け抜けていった。

「先輩……?」

バスルームのドアが勢いよく開き、勢いよく閉まる。

その後洩れてくる物音で、望美の行動の理由がわかった。

時計を見ると午前4時。

孤独な闘いの幕は夜明けに切って落とされた。






 
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