泣いたり笑ったり ( 1 / 2 )

 



「有川ってさ」

「え? どっち? 弓道部の後輩のほう?」

「そうそう。弟のほう。普段割とクールじゃん?」

「まあ、確かに。普段も競技中も、冷静で物事に動じないタイプだよな」

「お前、あいつが彼女と一緒にいるの、見たことあるか?」

「彼女って……? ああ、春日か! 有川、スペック高い割に普通の女子選ぶなと思ってたんだ」

「いや、それがさ、春日の前だとすっげー違うんだよ、有川」

「え? どんな風に?」





バタバタバタ!!

「先輩~っ!! 待ってください!! そのまま行っちゃダメですよ!!」

「え~、だって予鈴鳴ってるよ~!」

廊下で追いかけっこをしているように見える二人。

「ほっぺた! クリームついてますから!」

先を急ぐ望美の腕を何とか捕まえて、譲はポケットからハンカチを取り出した。

「あ~、休み時間終わっちゃうよ~」

「じっとしててください。すぐ済みます」

観念した望美が目をつぶると、冷静にクリームを拭き取っていた譲がいきなり真っ赤になった。

片目だけ開けた望美が「譲くん?」と問い掛ける。

「あ、す、すみません。はい、終わりました」

「なんで赤くなってるの?」

「な、何でもないです。授業、遅れちゃいますよ。廊下は走らずに急いでくださいね」

「え~?! 難しいこと言わないでよ~!」

バタバタと望美が走り去る背中を、額の汗をぬぐいながら譲は見送る。

(……キスするときと同じ顔だから…なんて……言えない……)





「……なんか今、ものすごく珍しいものを見たような……」

「だろ? とても同じ人間とは思えないだろ?」

「あいつ、実は表情豊かだったんだな……」

「つーか、あの彼女、どうよ」





「え? 譲くん? 幼なじみだよ。家が隣り同士だから、幼稚園から高校までずーっと一緒。将臣くんもそうだけどね」

昼休み。

クラスメートに譲について尋ねられた望美は、あっけらかんと答える。

「あんなゴージャスな兄弟がずっと一緒じゃ、望美の理想が高くなるのも仕方ないよね」

「ちゃんと一人ゲットできてよかったね。有川兄弟にかなう男子なんて校内にいないでしょ」

やっかみ半分の友人たちのコメントに、望美は異世界で共にいた八葉たちを思い浮かべた。

「……私、キャラの濃い人たちとのつきあいが多かったから、二人とも割と普通に思えるけどな」

「ちょっと、どんな人とつきあうとあれが普通になるのよ!」

「シュークリーム焼いてもってきてくれる彼氏なんて、普通にいないから!!」

そのシュークリームをパクパク食べながら、友人たちは拳を振り上げる。

「だいたいあの二人が入学以来、どれだけ多くの女子が告白して玉砕してると思ってるの? 望美が有川弟とつきあってくれたおかげで、将臣くんがフリーになったって喜んでる子、多いのよ」

「え~、そんなに人気あるの?」

「ちょっと望美、あんた、本当に夜道には気をつけたほうがいいよ!」

(譲くんは私にとって最高の男の子だけど、世間的にも評価高いのか~。知らなかった……)





「有川、あのさ」

「はい、何ですか?」

「あの~、二年の春日っているじゃん? あれ、お前の彼女?」

「……質問の目的がわからないんですが」

「こ、怖い顔するなよ。今日こいつとそういう話になったから」

「いや、ただの幼なじみだって噂も聞いたんで、一応」

「ただの幼なじみだったらどうするつもりなんですか?」

「ご、ごめん! 今のなし!! じゃあな!!!」

「……こ、殺されるかと思った~!!」