もう一度 ( 2 / 3 )
翌日。
何となく気まずいまま、二人は言葉少なに雪道を登校した。
「あ、俺、今日は部活なので一緒に帰れませんけど…」
「うん、わかった。頑張ってね」
昇降口で別れ、顔を合わせることなく一日が過ぎていく。
放課後、部室に向かっていた譲は、隣のクラスの女子に呼び止められた。
* * *
「……え…?」
「つきあってください。ずっと…有川くんが好きでした」
顔を真っ赤にして、俯きながら言う少女。
放課後の音楽室に、ほかに人影はなかった。
「あの……ごめん、俺……」
「……やっぱり、2年の春日先輩とつきあってるんですか?」
いきなり尋ねられて言葉に詰まる。
「いっつも一緒に学校に来ますよね」
「あれは家が隣だから……別に……つきあってるわけじゃ……」
苦々しい思いがこみ上げてくる。
そう、自分がそばにいることを許されているのは、家が隣だから、幼なじみだから、そして八葉だから……。
決してつきあっているわけではない。
ギュッと目を閉じ、感情を抑えると、できるだけ穏やかな声で彼女に答えた。
「とにかく、ごめん。俺、きみとはつきあえない。……好きな人がいるんだ」
「……わかりました…」
涙を浮かべ、がっくりと肩を落として彼女は教室を出て行った。
教室の外で友達らしい少女たちの声が聞こえる。
心配して待っていたのだろう。
すぐに出て行くわけにも行かず、譲は隣の音楽準備室への戸を開けた。
そこに望美が立ち尽くしていた。
驚きで一瞬頭の中が真っ白になる。
「先…輩…?」
「あ……」
表情から、今の会話を聞いていたのは明らか。
「どうして…」
「あ、ご、ごめん! 私、ノートを出しにきていて…」
肩越しに、机の上に積まれたノートが見える。
日直か何かで、提出物を届けに来たのだろう。
「聞くつもりじゃなかったんだけど、何か出るに出られなくて、その」
真っ赤になって、あわてて言葉を重ねる望美を安心させようと、譲は微笑んで言った。
「別にかまいませんよ。聞かれて困る話じゃないし」
「そ、そうだよね……」
突然、望美の顔が暗く翳った。
「?…先輩…?」
「…………」
望美は俯いて黙り込んでいる。
やがてその頬を、涙がつたい始めた。
「先輩!? どうしたんですか?!」
思わず腕をつかむが、望美に振り払われる。
「どうもしない!」
「どうもしないわけないでしょう! 急にどうしたんですか!?」
音楽室のほうへ逃げ出そうとする望美をつかまえ、両腕をつかんで正面から顔を見た。
両方の瞳から、涙が止めどなくこぼれ落ちている。
「理由を、聞かせてください!」
「私のことなんて気にしないで!」
「どうして?!」
「だって……! だって、つきあってるわけじゃないんだから!」
「え…?」
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