満月 ( 2 / 2 )
ほどなく2つの影は離れたが、しばらく何事か話した後、今度はゆっくりと寄り添った。
それきり長いこと離れない。
「…なるほど。きみはこれを妨げたかったんですね」
隣からいきなり弁慶の声が聞こえて、ヒノエは驚いた。
「まったく。望美のそばには朔ちゃんと白龍がいるからと安心していたのが甘かったぜ」
「朔は譲くんを応援していますからね。きみの安心は見当違いです」
カチンと来たヒノエが弁慶に食ってかかる。
「じゃあ、あんたは何かしたっていうのかよ!? 結局、譲に取られてるじゃねえか」
「……失敗しましたね」
微笑んではいるものの、どす黒いオーラが背中から立ち上っていた。
* * *
「お、おい、あ、あいつらは、な、何をしている、いるんだ…!」
遅れてやってきた九郎が、湯気が出そうなほど赤くなって言った。
「あ~、望美ちゃん、やっとうまくいったんだ~。よかったな~~」
能天気な景時の声に、いくつもの殺気が浴びせられる。
「やっと? おい景時、おまえ何か余計な事でもしたのか?!」
「や、やだなヒノエくん。これはただの感想だよ~」
「それだけとは思えませんね」
「ああ…。やっと離れた」
九郎の声に全員が振り向く。
まさかこんなに大勢に見られているとは知らない望美が、赤くなって俯きながら何か言っていた。
譲が驚きながらそれを見ている。
何言か交わした後、また2人の影が重なる。
「あ~、もういいわ、俺。とても見ていられねえ」
ヒノエがくるりと背を向けて言った。
「そうですね。今夜は僕らの負けという事で引き下がりましょう」
「え~!? 今夜だけ?! もうきっぱり諦めようよ~」
「あなたは黙っていてください」
氷より冷たい笑顔を弁慶に向けられて、景時は凍りついた。
* * *
「望美は……譲が好きだったのか…」
寂しさを滲ませた九郎の声に、一同がぐっと盛り下がる。
「そ、そうだ! せっかくの満月だしさ! どう? みんなで一杯! ね?」
場を何とか救おうと、景時が明るい声で言った。
「……望月までは、譲くんも奪えませんからね」
弁慶の言葉に、また全員が沈み込む。
そのとき、ガサッと茂みが揺れた。
「あ、朔! ちょうどいいところに! 酒と、何か肴を…」
妹の姿を見つけ、景時は救いを求めるように言ったが、当の朔は木の根元を見てうるうると泣いていた。
「譲殿、望美、よかったわね…!!」
ドーーンとさらに場が沈む。
「…なるほど。梶原兄妹には責任を取ってもらおうか」
「本当に。僕らの目を盗んでいったい何をしたんです?」
「……譲も……望美が好きだったんだな…」
「ええっ? 九郎殿、そんなことも気づいてなかったの?!」
「ま、まあ~、言いたい事は酒の席で! ね? さ、飲もう飲もう!!」
終始無言なままの玄武も加え、くら~い酒宴は盛り上がらないまま夜明けまで続いた。
* * *
そして翌日。
望美の復帰1日目の戦績は、二日酔いの八葉続出のため振るわなかったという…。
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