癖 ( 2 / 3 )
「癖がどうかしたの?」
背の高い影が、簀子縁に落ちた。
真っ白な装束でキラキラ輝くような笑みを浮かべた白龍。
大きくなってもあどけなさは変わらない。
「白龍。お前の癖は唐突に話に入ってくることだな」
苦笑しながらヒノエが言う。
「私の……癖? ごめんなさい」
「白龍、別に謝ることじゃないよ。ヒノエくんも変な言い方しないで」
「はいはい」
参ったというようにヒノエが背を向け、透廊を渡って帰ろうとする。
「私の癖は、いつでも神子を見ることだよ。神子の癖は、譲を見ることだね」
白龍のコメントに、その場にいた全員がいきなり凍った。
「は…白龍…?」
望美が、それ以上の暴走を止めようと声をかける。が、
「私はいつも神子を見ているからわかる。神子は譲がいると、譲のことばかり見ているね」
「白龍…!!」
「!!」
事態はより悪化(?)するのだった。
「ふうん、白龍、望美はそんなに譲のことばかり見ているのかい?」
余裕の微笑みを浮かべつつ、なぜか額に青筋を立ててヒノエが確認する。
「譲がいなければ、みんなのことを見ているよ。でも、譲が来ると」
「は、白龍、もうやめて!」
たまりかねて、顔を真っ赤にした望美が割って入る。
小さいころなら口を手で塞げたが、何せ背が高い。
無理矢理黙らせるのはとても無理だった。
「さ、さっき言ったみたいに、譲くんの癖に気づいてから、ついつい観察するようになっちゃって。ご、誤解しないでよ」
「誤解?」
意味ありげにヒノエが譲に視線を流す。
が、当の本人は、今明らかになった事実に戸惑うばかりで、口元を覆って一人で赤くなっていた。
「まあ、望美がそうしておきたいのなら、追求はしないけどね」
追求しても面白そうな話題じゃないし…と、ヒノエが伸びをする。
「そうなの?」と白龍。
「そ、そうだよ、気にしないで!」
まだ何か言いたげな白龍ににっこり微笑むと、望美は明るく話を打ち切った。
その場はそのまま解散となったが、小走りに去っていく望美の後ろ姿を見ながら白龍が譲に言う。
「神子は、譲の癖には気づいていないんだね」
「え?」
その声に、譲はやっと我に返った。
「いろいろ……気づかれてるみたいだけど」
「でも、譲がいつも神子を見つめていることには気づいていないよ」
「は、白龍!」
さっと赤くなって譲が声を上げる。
「譲は、神子が譲のほうを見ていないときしか、見つめないから……どうしてなの?」
「ど、どうしてって……」
しどろもどろになっている譲を、小首を傾げてじっと見る。
どうやら、説明しないとこの場は収まらないらしい。
「俺は……昔から兄さんと一緒にいる先輩を見てきたから……俺のほうを見てもらうことなんてなかったから……」
生々しい記憶に、胸の奥がズキンと痛む。
「譲、今の神子は譲を見ているのだから、譲もちゃんと見つめ返せばいいと思うよ」
「白龍……」
「神子と八葉の絆が深まることは、この世界にもよい影響を与える」
八葉……という言葉を呑み込んで、少し黙ってから譲は微笑んだ。
「そう…だな。今度試してみるよ、白龍」
「うん!」
白龍とともに透廊を渡りながら、「今、先輩がいなくてよかった」と譲は思っていた。
この微笑みの癖を、彼女にはもう見抜かれてしまっているから。
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