時限性ツインズ ( 4 / 4 )
「おかげで明日は熊野本宮に向かうことができます」
その晩、譲が戦闘でヘロヘロになったため、かなり簡素に仕上がった祝いの膳を前に、弁慶がにこやかに宣言した。
「ああ、皆のおかげだ。今宵は将臣の『たんじょうび』に加え、怨霊の封印も祝えてうれしく思う」
今夜ばかりは九郎も、素直に喜びを表した。
将臣の杯ににごり酒を注ぎながら、「将臣くん、お誕生日おめでとう!」と、望美が微笑む。
そう言う望美の膳に置かれているのは白湯で、
「サンキュ。そっか、お前たちはまだ飲めないんだよな」
と、将臣が少し寂しげに笑った。
「別にこっちの世界じゃ、譲だって望美だって飲んでもいいと思うんだけどね。何せこいつがおカタいから」
ヒノエが譲を指差してウインクする。
「未成年の酒の摂取は脳の健全な発達を阻害するんだ」
「お前の呪文はどうでもいい」
楽しげに口喧嘩する二人を眺めながら、弁慶はにっこりと微笑んだ。
「それで、譲くん、『ぷれぜんと』はまだいいんですか?」
「ああ、私もそれが気になっていた」
ずっと黙っていた敦盛が口を開く。
「そうだな、慣れぬことゆえ……」
「初めてだから何だかドキドキする!」
リズヴァーンと白龍もうなずきながら同意する。
「それを言ったらオレだって!」
「ああ、この中で慣れているのは、俺と弁慶と敦盛と……朔くらいか」
景時の言葉に、九郎が答えた。
「え? いったい何の話だ?」
一人、蚊帳の外に置かれた将臣が周りを見回すと、ゴホン!と、譲が咳払いした。
「じゃあ兄さん、俺からの……いや、俺たち全員からの『誕生日プレゼント』を贈るよ」
「え」
「うふふ、緊張するね!」
「の、望美、お前まで……?」
「兄さん」
譲が将臣の顔を正面から見つめる。
「兄さんへのプレゼントは……」
ごくり、と将臣が唾を飲み込んだ。
「「「「「「「「「「「お誕生日おめでとう、
兄さん/お兄ちゃん/兄上!!!」」」」」」」」」」」
「なにい~~っ?!?!?」
「これから熊野本宮までの間、全員から『兄さん』と呼ばれる権利、だよ」
譲が満面の笑顔で告げた。
「さ、お兄ちゃん、お酒のお代わりをどうぞ」
「望美!」
「兄上、俺からも一献」
「く、九郎!」
「ふふふ、君はいけない人ですね、兄上」
「弁慶~っ!??」
「野郎の呼び方なんて、どうでもいいんだけどね、『兄さん』」
「だったらやめろ! ヒノエ!」
「あはは~、何か緊張するな~、あ、兄上♡」
「やめんか! 景時!!」
「兄上は、譲にとって最高の兄上だと思う…」
「サンキュ…って、さすがに呼び慣れているな、敦盛」
「……兄上、少し落ち着きなさい」
「なんでこんな企画にリズ先生まで乗るんだ!!」
「私たちは神子の願いをかなえているんだよ、兄上」
「白龍……orz」
「いっぺんに弟や妹がたくさんできてうれしいでしょう? 兄上」
「朔~~! お前はこの集団の唯一の良心じゃなかったのか?!」
「何か、さすがに気の毒になってきたな」
全員にもみくちゃにされている将臣を見ながら、譲がつぶやく。
「でも、結構喜んでるかも、将臣く……じゃない、お兄ちゃん」
望美が隣で笑った。
「どうしてですか?」
「さっき熊野川から帰ってくる時にね、譲くんに久々に『兄さん』って呼ばれてうれしかったって言ってたの。この世で自分をそう呼ぶのは譲くんだけだからって」
「あ~……一気に増やしちゃいましたね」
「いいよ! お誕生日なんだから!」
実は平家にも、嫌がらせで「兄上」と呼ぶキャラはいるのだが、あんなのかわいいものだったと、将臣は思い知った。
「兄上、この魚は熊野でしか食せない。ぜひ味わっておきなさい」
「いや~、いい飲みっぷりだね~! 兄上~」
「僕が作った薬酒も用意していますよ、兄上。効き目は保証します」
いったい何に効くんだ~~っ!??
と聞く間もなく、絶え間なく注がれる酒を飲まされる将臣だった。
この後、主役の懇願で「みんなのお兄ちゃん」期間は大幅に短縮されることになったという。
将臣くん、お誕生日おめでとうございます!!
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