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時限性ツインズ ( 3 / 4 )

 



いよいよ将臣の誕生日当日。

ようやく「苦行」から解放された譲は、簡素ながら趣向を凝らした誕生祝いの膳をチェックしていた。

「あとはメインの魚と、野菜を何種類か調達すればいいか」

滞在が長引いているため、勝浦の市になじみの店も出来つつある。

「譲く〜ん、そろそろ出かけるって」

望美に呼ばれて中庭に出ると、幸い将臣も来ていた。

「う〜す」

「相変わらず眠そうだなあ。こっちにはテレビもゲームもないんだから早寝できるだろ?」

「何時間寝ても、眠いものは眠い」

そういえば元の世界でも、睡眠時間に関係なく毎日のように寝坊していた。

「将臣、譲、支度はいいな?」

九郎が促し、一行はもはや日課となっている熊野川の偵察に出発した。




少し手前からでも、轟々と響く水の音が聞こえる。

緑滴る美しい光景の中、なぜかそこだけがどんよりと曇った熊野川の川縁。

流れる水は泥色に濁り、激しく渦巻き、今日も行く手を阻んでいた。

誰からともなくため息がもれる。

もう何日、こうしてこの場所に通っているだろう。




引き返そうとしたとき、九郎に旅装束の女が話しかけてきた。

見たところ一人で、この世界に来て間もない譲でさえ

(女性が一人旅? まさか)

と思う。

将臣や望美やリズヴァーンまで加わってしばらく話しているうち、急に辺りに瘴気が立ち込め始めた。

「?!」

異変に気付き、譲が駆け寄ったときには、すでに目の前に巨大な怨霊が立ちはだかっていた。

普段出くわす怨霊とは明らかにスケールが違う、強大で邪悪なオーラをまき散らす闇の化身。




「譲、下がってろ!」

大太刀を構えた将臣が叫ぶ。

隣では、九郎も刀を抜いていた。

「だって、相手は木属性だろ?」

「馬鹿言うな、カエルの化け物がなんで木……ってマジかよ!?」

「ここは俺にまかせて…!」

その時、前にいた望美が剣を手に怨霊に斬りかかった。

望美の属性は土。木属性には致命的に弱い。

下がりかけていた将臣が気づき、急に方向転換する。

「望美! 行くな!」

「兄さん!! 下がれーーっ!!」

響き渡る譲の絶叫。

動きを止めた将臣の髪をかすめて、渾身の力を込めた矢が光のごときスピードで飛んでいった。

「!?」

将臣は自分がコース上にいたのだと知る。




深々と怨霊に突き刺さる金の力を帯びた矢。

景時が魔弾を放ち、さらに追い打ちをかける。

耳をつんざくような怨霊の怒号の中、将臣は望美を引き戻した。

「お前は後ろにいろ! 俺たちが守る」

「将臣くん!」

素早く目配せを交わし、天地青龍が地を蹴った。

天地朱雀と天地玄武がそれに続く。

白刃が舞い、矢と弾丸が飛び交う。

死闘の末、熊野川を氾濫させていた怨霊は、ついに封印されたのだった。







 
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