発熱1 ( 3 / 3 )
翌朝。
熱の下がった望美は、珍しく早起きして有川家を訪ねた。
「譲なら寝込んでるぜ」
眠そうな顔で玄関に現れた将臣は、二階を指差しながらそう告げた。
「えっ……!?」
「あいつ、昨日おまえの看病に行ってたんだろう? しっかりうつしやがったな」
「そ、そんな…!」
望美は、真っ赤になって思わず自分の口に手を当てる。
「はあ〜ん…」
「な、何!?」
「いや…」
横目で望美を眺めると、ボリボリと頭をかきながら将臣が言った。
「まあ、そういうわけだから、放課後に譲の看病に来るのはかまわないが」
ふっと望美の耳元に近づく。
「今日はキスは遠慮してくれや」
バッチ〜ンと、将臣をはり倒すいい音が有川家の玄関に響いた。
こんなに実用的で有効なアドバイスをしたのに、どうして殴られなきゃならねーんだ!という将臣の抗議に耳も貸さず、望美はプンプンと有川家を後にする。
頭の中では、放課後の看病プランを組み立てながら。
* * *
「まあ譲、風邪くらいで済んでよかったぜ」
頬についた手形を隠しながら、将臣が言った。
「どういう意味だよ、兄さん」
アイスノンと冷えピタで熱と格闘中の譲は、部屋の入り口に立つ兄をにらむ。
「だって、望美の手作りチョコをもらった日には、一週間は寝込む羽目になるぜ」
「う……」
(は、反論できない……)
昨日、冷蔵庫の中にあった恐ろしいほど大量の「チョコ?」「菓子?」「た、食べ物?」な群れを思い出し、譲は青ざめた。
「だからな、バレンタインは毎年キスだけってことにしろよ」
「でもそれじゃ…」
と、そこまで言って譲はハッと気づく。
「ファーストキスおめでとう、わが弟よ」
すごい勢いで飛んで来た枕を素早くドアでブロックすると、高笑いを上げて将臣は去っていった。
「……!!!」
フラフラと枕を取りに行き、再びベッドに横になる。
(な、なんで兄さんがそんなこと……って、数時間一緒にいただけでうつったんじゃわかるか)
まさか望美がバレバレの反応をしたとは想像もしない譲は、ひとしきり反省した後、昨日の甘い時間を思い出した。
チョコよりもずっとずっと心を酔わせる贈り物…。
(バレンタインにチョコの代わりにキスをもらったと考えると、ホワイトデーには何を返せばいいんだ?
……………。
…………………。
………………………!!!)
放課後、望美が果物やプリン(買った)を山ほど持って見舞いに訪れたとき、譲の熱は朝よりもずっと上がっていたという。
がんばれ、青少年。
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