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2人の白虎 ( 3 / 4 )

 



「源平時代……私たちの100年後…」

「星の一族の人から聞いた、100年前の神子って、高倉さんだったの」

「100年前にも、現代から流された人がいたんだ…」

「あの乱世の時代の戦に、神子殿が巻き込まれたのですか」




お互いがさまざまな感慨を口に出した。

院と帝が争い、鬼が京の滅びを企てた末法の世、たった一人で白龍に召喚された花梨。

八葉を捜し、その信頼を得るまでの苦しみと、心惹かれる幸鷹が同じ世界の出身だった驚き。

源氏と平家の戦のただ中で、自ら剣を振るって運命を切り開いた望美。

幼なじみが平家の頭領となっていた苦しみと、史実とはまったく異なる戦いの幕切れ。




「あれ、幸鷹さんも天の白虎なんですよね」

望美が言った。

「ええ。金気を帯び、陽光の術を使っていました」

「すごい! 譲くんと同じだ!」

幸鷹がまじまじと譲を見る。

「きみも…」

「はい…。俺は八葉では最年少でしたから、地の白虎の景時さんに助けてもらってばかりだったんですが」

地の白虎の名前を出されて、幸鷹が複雑な顔をした。

クスッと花梨が笑う。

「幸鷹さんは、地の白虎の翡翠さんとは天敵だったから」

「え? 同じ八葉でそんなことがあるんですか?」

譲が言うと、望美が制服の袖をツンツンと引っ張った。

「うちの青龍もあんまり仲良くなかった気がする……違う意味で」

「…ああ……まあ…」




「私は京で、朝廷に仕える中納言という役職にいました。同時に、検非違使別当も兼ねていたのです」

「検非違使別当……。京で九郎さんが就いていた役職ですね」

譲が記憶をたどりながら言う。

「確かに、源義経もその任にあったようです。その前には、平清盛の義理の弟、平時忠が務めています。武士の勢力が強くなるにつれ、貴族から武士へと役職が移っていったのでしょう」

自分の時代、武士はまだ貴族の私兵に過ぎず、政に参加することはなかった。

わずか百年の間に起きた劇的な変化に、幸鷹はあらためて驚嘆する。




「で、地の白虎の翡翠さんは海賊だったんです」

花梨が言うと、

「海賊…って、熊野水軍みたいなのとは違うのかな」

と、望美が聞き返した。

「熊野水軍をご存じなのですか?」

幸鷹が驚く。

「あの…私のときの八葉に、熊野水軍の別当がいたので…」

そう分かるまでにかなりかかったけど……と、望美は心の中で回想した。

「なるほど。そういえば、武蔵坊弁慶も熊野別当の血筋と言われていますね。ええ、まあ、翡翠の場合は海賊のほうが主たる生業でしたが、熊野水軍に近い存在でしょうね」

「治安維持を司る検非違使別当には、確かに天敵ですね」

譲が苦笑しながら言った。