2人の白虎 ( 2 / 4 )
「わあ……長いんですね。勝真さんの弓よりずっと長いや」
「勝真の弓は短弓でしたから。長弓も見たことはあるでしょう?」
喫茶店の壁に立てかけた譲の弓を見ながら、花梨と幸鷹が話していた。
電車の中ですっかり意気投合した3人は、幸鷹の待ち合わせ相手である花梨も含めて、お茶でもいっしょに…ということになり、駅からほど近い喫茶店に入っていた。
「どなたか弓道をされていたんですか?」
譲が尋ねる。
「そうですね、私も多少はたしなみましたし、友人に……弓の得意な人間がいて」
「勝真さんって言って、とってもうまかったんですよ」
花梨がうれしそうに話す。
「学生時代にやっていたんですか? 大会に出たりとか?」
望美が興味津々という顔で尋ねる。
途端に幸鷹と花梨は顔を見合わせ、
「いえ、単に趣味でやっていただけですから」
と、話を打ち切った。
2人の様子に気づいた譲は、
「高倉さんは、藤原さんとはどういうお知り合いなんですか?」
と、ストレートに尋ねてみた。
「あ…! あの……」
いきなり真っ赤になった花梨の代わりに、幸鷹が答える。
「婚約者なんです。彼女が大学を終えたら結婚する予定です」
「え〜〜〜〜〜〜!!?」
大声を上げた望美の口を、譲があわててふさいだ。
店内の客が何人か振り向く。
「お…親の決めた相手とか?」
譲の手をよけながら、望美が尋ねた。
「いいえ! れ、恋愛です!」
真っ赤な顔を左右に振って、花梨が答える。
「すご〜〜い!! ロマンチック!!」
「せ、先輩、少し声を抑えて」
脇で譲が必死にフォローした。
「最初は幸鷹さんのお仕事の関係で……知り合ったんですけど、一緒に過ごすうちに…」
ポツリポツリと話す花梨を助けるように、幸鷹が続ける。
「私が猛アタックしたんですよ。ライバルも多かったですから」
「そんなこと…!ないです」
真っ赤になって否定する花梨を見て、(多分本人が気づいてなかっただけだろうな)と、譲は思った。
自分の隣で夢物語でも聞くようにうっとりしている人と同様に。
「すごい……。幸鷹さんみたいな人にアタックされたら、メロメロだよねえ…」
(いや、多分あなたはアタックされてることに気づきませんから…)
譲が秘かに嘆息するのを見て、幸鷹が言った。
「きみたちもつきあっているのでしょう? 私には、十分仲良く見えますよ」
「え!?」
「わあ! ありがとうございます」
赤くなる譲と、うれしそうに返事をする望美。
コントラストが鮮明で、見ている花梨も微笑んだ。
「有川さんが猛アタックしたんですか?」
と、意趣返しする。
「そ、それは……」
「告白したのは私です」
望美がきっぱりと言った。
「私、すごく鈍くって、譲くんがいつも守ってくれていたのに気づくのが遅くて。好きだってわかるのに時間がかかったから…」
一瞬遠い目をした後、くるっと譲のほうを見て悪戯っぽく笑う。
「それで、廚でいきなり抱きついたんだよね」
「…あの時は驚きました…」
笑いあう2人を前に、幸鷹と花梨は視線を交わした。
普通は聞き慣れない単語。
「…どうしてまた、廚で?」
微笑んだまま、幸鷹が尋ねる。
「あのころ、譲くんはみんなの朝ご飯を一人で作ってたから。朔と私と八葉のみんなと…」
「先輩…!」
譲が気づいて望美を制止した。
花梨が目を大きく見開く。
幸鷹も息を呑んだ。
沈黙。
「八葉……。あなた方もまた、京にいたのですか…?」
幸鷹が緊張を滲ませた声で、ゆっくりと言った。
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