当たり前のこと ( 6 / 7 )
譲くんは毎日、陣に帰ると真っ先に私に会いに来る。
私が起きていると、とてもうれしそうな、ほっとした顔をしてその日の出来事を語り、眠っていると、目覚めるまで何度も何度も様子を見にくる(そうだ)。
封印の力が使えない以上、怨霊との闘いは終わりのないものになる。
それでも束の間、相手の力をねじ伏せ、目的地に進み、さまざまな軍務を遂行している。
「早く戦闘に戻らないと」
焦った私が言うと、決まって譲くんは
「まだ駄目です。深呼吸しても痛みがなくなるまで、休んでいてください」
と、諭した。
* * *
そしてある夜。
珍しく、陣には人がまばらだった。
九郎さんたちは軍議のために少し離れた別の陣幕に集まっていたし、白龍と朔は水汲みから戻ってきていない。
私は譲くんと2人で陣から少し離れた大きな木の根元に座っていた。
きれいに晴れた夜空の満月を眺めるために。
「…明日からいよいよ戦線復帰だよ」
「そうですね。俺としては、もっと休んでいてほしいですが」
「………」
私はしばらく沈黙してから、譲くんの顔を覗き込んだ。
「やっぱりまた……私のほうを見て戦う?」
「え…」
照れくさくて、目をそらす。
「だって、偉そうなこと言っておいて、ケガしちゃったから」
「そうですね。…でも、多分ちょっと違う戦い方ができると思うんです」
「?」
今度は譲くんが、照れたように目をそらした。
「先輩に自分のほうを見るなって言われて、真剣に敵と戦い出したら、感覚が研ぎ澄まされてきたと言うか……多分これからは、敵と戦いながらもあなたを守ることができると思います」
「…すごい…譲くん」
眼鏡のブリッジに手を当てて、譲くんが少し俯いた。
顔が赤くなっている。
「…あのとき……あなたが目を醒まして最初に言った言葉を聞いて……俺は本当に心配をかけていたんだとわかったんです。だから……前のようなことはしません」
「…あ…」
私も一緒に俯く。理由は違うけれど。
戸惑いを悟られないように、話を続けた。
「あのとき…夢を見てたの。小さな譲くんが泣いてる夢。多分昔、本当にあったことだと思うんだけど」
「泣いていた…?」
「うん。それで私、『譲くんは泣き虫だから、怖い人が来ても私を守れないね』とか言っちゃって……」
「…あ……!」
譲くんが、思い当たることがあるように声を上げた。
「…やっぱり、本当にあったこと?」
「え、ええ……でも、あのとき泣いていたのは…」
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