I could ( 2 / 2 )
「…あなたを…このように傷つけてしまって……本当に申し訳ございません…」
しばらく後、絞り出すような低い声で幸鷹は言った。
それに応えて、嗚咽の合間に花梨がつぶやく。
「……幸…鷹さん…には……ほんの…あいさつ…でも……」
「はい…?」
頬に再び朱が上る。
「わ、私には……ファーストキス…で…、だから…わ、忘れたり…なんか……」
「神子殿…!」
たまりかねて、幸鷹は花梨の両腕をつかみ、自分のほうを向かせた。
「あいさつなどではありません! あなたをお慕いしているからこそ、私は…!」
「で、でも、申し訳ないって……」
「それは……!」
一度言葉を呑み込み、目を伏せてゆっくりと息を吐く。
「……すべてが終わってから告げるはずの想いが、不用意に溢れてしまって……このような大切な時期に、我ながら情けないと反省したのです。自制心には自信があったのですが……あなたの前ではすべて無力なようだ」
「………私のこと、嫌いじゃないんですね……?」
「当たり前です!」と顔を上げると、目の前に花梨の潤んだ瞳があった。
すがるような切ない眼差し。
その瞬間、理性の箍が外れる。
幸鷹は花梨を抱き寄せ、桜色の唇を自分のそれで覆った。
昨日の触れるだけのキスとはまったく違う、熱く深い口づけ。
「!」
最初は驚いて硬直していた花梨も、やがて幸鷹の背中に手を回し、おずおずと応え始める。
長い長い時間、二人の唇は離れなかった。
* * *
「……だから……自制心がないと……」
ガックリと肩を落として幸鷹が言う。
「幸鷹さん……」
激しいキスの余韻に浸りながら、花梨がその背に手を添える。
「信じてください、神子殿。屋敷を出た際は、もう決戦が終わるまで、あなたには指一本触れないと誓っていたのです。それが……」
自分が信じられない…というように、幸鷹が片手で顔を覆った。
その手に花梨がそっとキスをする。
「神子殿…?」
悪戯っぽい微笑み。
「そんな誓い、どこかに捨てちゃってください。私、幸鷹さんにもっとキスしてほしいから」
「…あなたは……」
クラクラと甘い目眩が幸鷹を襲う。
(わかっているのですか? 私はキスだけで止める自信もないというのに……!)
「幸鷹さん…?」
諦めたようにひとつ吐息を落とすと、幸鷹は微笑んだ。
「そう……ですね。では神子殿、お望みのままに……」
「…ん……」
今度は優しく、啄むように。
とろけるような柔らかい唇の感触を味わいながら、幸鷹は自分の自制心のありかを必死で探していた。
(私は自分が恐ろしい。どうか、次の箍だけは外れませんように……)
御簾の外では灰色の空から、白い雪の切片が舞い落ちていた。
|