伝えたい言葉 (1/2)

 

「譲くん!」

「先輩! どうしたんですか? 学校に用でも?」

校門の前で、いきなり望美に声をかけられた譲は驚いて言った。

今日は冬休み前の最後の日曜日。

一般生徒は登校していない。

「ううん。譲くんを待ってたの。今日、部活はお昼までだって聞いたから」

にっこり笑われると、いつもの「無駄な期待」を抱きそうになる。

自分を制しながら、譲はできる限りの平静さを保って口を開いた。

「お昼の用意は朔に頼んできたんですが、何なら今から帰って、俺が先輩の分も作りましょうか」

「………」

望美が、少しショックを受けたような顔をした。

「…先輩?」

「私……」

そこまで言うと、いきなりブルブルと左右に首を振り、パッと表情を明るくして

「一緒にどこかでお昼を食べない?」

と提案してきた。


* * *


「ギリギリ入れてよかったね!」

「ああ、もう外に行列ができてますね」

小町通りから一本入った場所にあるカレー屋で、窓の外を見ながら2人は話していた。

手軽な値段とたっぷりのボリュームで人気のカレー屋は、11:30の開店後ほどなく、長い行列ができる。

急いで駆けつけた2人は、滑り込みセーフのタイミングで席を確保していた。

「私、チーズカレー!」

「俺も同じで」

注文を終えるとぐるっと店内を見回し、望美が軽く溜め息をつく。

「また、ここに来られてよかった…」

「兄さんも先輩も、来たがってましたよね」

異世界での会話を思い出す。

「カレーって、食べたいと思うと止まらなくなるでしょ? あのときも、譲くんが弁慶さんの漢方薬で作ってくれなければ、将臣くんと2人で暴れ出してたよ」

「ははは。危ないところでした」




サラダとカレーをつつきながら、譲があらためて尋ねる。

「それで先輩、俺に何か用だったんじゃ?」

「?! !!??!!!」

口いっぱいにカレーを頬張っていた望美が、いきなり苦しみ出した。

「せ、先輩!!?」

譲が慌てて立ち上がって背中をさすり、水を差し出す。

ひとしきりもがいた後、水の助けで何とか飲み込み、望美は一息ついた。

「大丈夫ですか? すみません、いきなり話を振って」

譲がすまなそうに言う。

望美は首を左右に振ると、

「…ううん……私こそ……あ〜〜、死ぬかと思った」

と、胸をトントン叩いた。

「戦場で死ななかったのに、カレー屋で死んじゃまずいよね」

と、苦笑いする。

「はあ……ブラックですね…」

つられて譲も笑った。


* * *


「あ! ねえ、譲くん、矢の形のお守りだよ」

鶴岡八幡宮の拝殿の下で、お守りを物色していた望美が声を上げた。

「ここでは流鏑馬が行われますから。ああ、きれいなお守りだな」

横から覗いた譲が答える。

「譲くん、黒だよね。私は赤にしよっと」

「え…?」

財布を開いて札を取り出す望美を、譲は呆然と見ていた。

そもそも八幡宮にはカレーの腹ごなしをするため来ただけで、お参りもしていない。

「はい。弓がもっとうまくなりますように。あと……夢見がよくなりますように」

黒いシートに金色の破魔矢を配したお守りを差し出しながら、望美がにっこり微笑んだ。

望美の手元には、色違いの赤いシートの破魔矢のお守り。

「あ……ありがとうございます」

頬を少し染めながら、譲は受け取った。