選択肢 ( 1 / 3 )
「ちょっと将臣くん、何するのよ! 私が命がけで弱らせたのに!」
「ありがとよ、望美。最後に倒すのは俺の仕事だ」
「うそーっ!!」
あと一回の戦闘で倒せそうだった鬼の首領キャラを、いきなり横から倒されて、望美はカンカンになった。倒した際のインセンティブはすべて将臣のもの。
「もう、将臣くん、信じられない! 性格悪過ぎだよ!」
「ルールの範囲内での作戦行動だ。文句言われる筋合いはないぜ」
くっと口の端を上げて笑う将臣を睨みつけながら次の札を引くと、思い切り強そうな怨霊が出てきてしまった。
「えっ? うそ!!」
案の定、望美のキャラは体力切れとなり、本拠地への撤退を余儀なくされる。
「さて、この間にお宝をいただくとするか」
「もーっ! 将臣くん、サイテーだよっ!!」
* * *
「いつまで怒ってるんだ? 望美」
紅茶の入ったマグカップをテーブルに置きながら、将臣が言う。
ゲームが終わって10分もたつというのに、望美はソファで膝を抱えてすねたまま。
「将臣くんに勝つまで」
「そりゃ無理だ」
ボスンと、望美がクッションを叩いた。
「…考えてみると、私、将臣くんにゲームとかで勝ったこと、ほとんどないんだよね。譲くんには勝てるのに」
叩いたクッションをお腹に抱え込みながら呟く。
「あいつのは接待ゲームだからな。俺と2人でやるときは容赦ないんだぜ」
「え? ほんと?」
「本当だ」
へえ…っと感心しながら、望美は過去の記憶を辿っているようだった。
ほら、飲めよと、将臣がマグを渡す。
熱い紅茶をひと口、ふた口とすすった後、突然望美が言った。
「将臣くんといるのってすごいラクだよね。話も合うし、遠慮もないし、長い時間一緒にいてもちっとも疲れないし」
「ん?」
言いたいことが掴めず、将臣は疑問符を浮かべた。
「……私、将臣くんとつきあう可能性もあったんだよね」
「望美…」
いきなりの発言に、将臣は言葉を失う。
「どうしてつきあわなかったのかなあ…」
望美が不思議そうに首を傾げた。
(わかってる)
将臣は心の中で呟く。
(こいつはまったく深い意味なんかなく、純粋に不思議に思って口に出してるんだ。それが、どれだけ残酷な問いかも知らずに…)
「…まあそれは、何だ」
一息ついてから言う。
「おまえが俺にトキメキってやつを感じなかったからだろう」
「えーーーーーーっ?!」
望美が大げさに驚いた。
「ま、将臣くんがそんな恥ずかしいこと言うなんて!」
「恥ずかしくなんかねえさ」
テーブルの上で組んだ手に顎を乗せて、話を続ける。
「俺といるのがラクで疲れないなら、譲といるときはどうなんだ?」
「え…?」
いきなり望美が頬を染めた。
「それは……何かくすぐったいような、うれしいような……。表情とか、声とか、言葉とか、そういうものにいちいち感動したり、落ち込んだり、心配になったり…。でも、そばにいるだけでとっても幸せなような……」
「それがトキメキだよ。ごちそうさん」
そ、そうなのかな…と、頬に手を当てながら、望美は再びマグに口をつけた。
その姿を将臣はまぶしそうに見つめる。
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