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桃虎参上 ( 2 / 6 )

 



「先……輩……?」

「譲くううん、遅い〜〜!!」

そのまま前に倒れかける。

「せ、先輩、しっかり!!」

「えへへ〜〜大丈夫だも〜〜ん!!」

倒れる寸前で器用に体勢を戻し、今度はその勢いで後ろに倒れそうになる。

「うわあ、ちょっと!!」

あわてて肩をつかんで、胸に抱きとめた。

「先輩…いったいどれだけ飲んだんですか」

ケガをさせずに済んだと安堵の溜め息をつきながら、望美を支えて部屋の中に入った。




ゆらゆら揺れ続ける望美は、前後左右どこに倒れるかわからないので、ベッドを背にしたテーブルの前の席に座らせる。

譲が氷入りの冷たい水を前に置くと、突然シリアスな声で話し出した。

「譲くん……」

「はい?」

「譲くんは、ヒノエくんが好きだったの?」

「は?」

「それとも敦盛さん?」

「??? 何の話ですか?」

「だって〜〜!!」と、いきなり大泣きを始める。

「2年もつきあってて何にもないのは変だってみんなが〜〜!! 
それはホモのカモフラージュにされてるんだって言うんだもん!!」

「!!???☆☆☆」

驚きのあまり声が出ない。

「譲くん、確かにヒノエくんと仲良かったし、ヒノエくん色っぽいし、敦盛さんなんかもう美少女そのものだし」

「先輩、いったいコンパで何の話をしてきたんですか」

「へ?」

「何で俺と何もないとか、そういう話になるんですか?!」




う〜んと、天井を見上げて望美が必死で思い出す。

「あのね、最初はみんなすごくほめてくれたの。
譲くん、背が高くてかっこよくて素敵で、優しくてハンサムでうらやましいって」

(同じような表現が重複してるな)と思いつつ、譲は耳を傾ける。

「で、きっとベッドでも素敵なんでしょ?って話になって」

「どうしていきなりそっちに……」

女子大恐るべし。いきなり下ネタか……と、譲は思った。

「で、比べられないからわからないけど、キスはとってもうまいよって」

「先輩!!」

譲が真っ赤になる。もう大学に迎えに行けないじゃないか!と、心の叫び。

「で、ほかは?ってみんなが聞くから」

「ああ、もういいです。だいたいわかりました」

「で、ホモだって」

「先輩」

望美の両腕をそっとつかんでこちらを向かせる。

「ほかの人にどう思われてもかまいませんが、先輩までそう思うなんてあんまりですよ。
だいたい、これまで何もなかったのは環境のせいだし、こっちに来てからも何かと親が………先輩?」

気づくと望美の目は閉じている。

言うだけ言って眠ってしまったらしい。

はあーっと譲は大きな溜め息をついた。

(この調子じゃきっと、明日は何も覚えてないんだろうな)




とにかく、今夜はベッドを明け渡すしかない、と思った譲は、はたと困った。

今の望美の服は、さすがにそのまま寝るには窮屈そうだ。

かといって、まさか自分が着替えさせるわけにもいかない。

「せ、先輩、すみません、まだ寝ないで。起きてください」

必死に身体を揺すって望美を起こす。

「ん〜?」

ゆらゆら揺らされて、望美が目をこすりながら譲のほうを見た。

「着替えてから寝ましょう。えっと、これ、俺のTシャツ。
ね、自分で着られるでしょう?」

「ん〜」

(わかってるのかわかってないのかわからない返事だ)

「先輩、わかりますか? 着替え。着替えるんです」

「……うん」

おもむろに望美がブラウスのボタンを外し始める。

「うわっ、ちょっと、じゃあ俺、バスルームにいますから!!」

後ろを振り返らないようにバスルームに飛び込むと、譲はドキドキする胸を押さえた。

(まったく、あんな酔っぱらい方をするんじゃおちおちコンパにも行かせられないな)

今後はあんなになる前に、絶対に迎えに行こうと譲は心に誓った。




10分もそうしていただろうか。

部屋の中からはまったく音が聞こえない。

もしかして、着替えないでそのまま寝ちゃったのだろうかと、おそるおそるドアを開ける。

すると……譲の前には冒頭の、ほとんど全裸の望美が横たわっていた。






 
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