桃虎参上 ( 1 / 6 )
目の前にはまぶしいほどに真っ白な背中。
身につけているのはほとんどショーツ1枚で、譲は一瞬、自分の妄想の中にでも迷い込んだのではないかと思った。
「先輩……」
最愛の人の輝くように美しい裸身。
長い髪がしどけなくベッドに広がっている。
「これは何かの……罰ゲームか……?」
譲は思わず天を仰いだ。
* * *
1時間ほど前。
夜も11時をまわって、シャワーを済ませた譲は文庫本片手にくつろいでいた。
メールを打とうと携帯に手を伸ばすが、「そうか、今日はコンパだって言ってたっけ」と、思いとどまる。
望美は、大学のクラスのコンパに出席していた。
女子大なので、メンツは女性ばかり。
その点、多少(?)焼き餅焼きの傾向がある譲は安心していた。
飲み会の光景を想像しながらつぶやく。
「先輩って、酒飲めるのかな……?」
この間まで譲が高校生だったこともあって、2人は一緒に酒を飲んだことがない。
当然、望美の酒癖も想像がつかない。
大学でも弓道部に入った譲は、体育会系新歓の洗礼を受けていたので、それなりに自分が飲めるタイプであることはわかっていた。
「兄さんもよく平家の人たちと飲んでいたみたいだし。家系的に強いのかもな」
ひとりつぶやいていると、突然携帯が鳴り出した。
画面を見ると、望美の自宅からのコール。
「? 携帯じゃないなんて珍しいな」
受信ボタンを押すと、意外な声が聞こえてきた。
「あ、譲くん? 望美の母ですけど」
「おばさん! どうしたんですか? 先輩に何か?」
真っ先に望美の心配をする譲に、電話の向こうの望美の母が苦笑した。
「それが……とっても申し訳ないんだけど、今夜そちらに望美を泊めてもらえないかしら?」
「は…?!」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
これは……望美の母親からの電話。
その母親が、望美を自分の部屋に外泊させようとしている?
譲のことを信頼してくれているのはわかっているが、それにしても2人は恋人同士で、一晩一緒にいて絶対に何もないとは保証しきれない。
いや、これは何かの試練か?
俺は試されている?
グルグルと頭の中をさまざまな思いが巡り、譲は黙り込んでしまった。
「あ、ごめんなさいね、突然。何でこんなこと頼んでいるかは……
望美が行けばわかると思うんだけど」
「……先輩が……こっちに向かっているんですか?」
やっとわれに返る。
「電車に乗せるのも人様の迷惑になるしねえ」
「迷惑?」
そのとき、ものすごい勢いでチャイムが鳴った。
「あ、それそれ。望美よ。ほんと、迷惑かけてごめんなさいね、譲くん。
まあ将来のために慣れておいたほうがいいだろうし。よろしくね」
いろいろ突っ込みたくなるせりふを吐いて、望美の母は電話を切ってしまった。
立て続けに鳴るチャイムを止めるため、譲は携帯を放り出して玄関に突進した。
勢いよく開けたドアの先には……白虎ならぬ桃色の虎が……立っていた。
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