真昼の決闘 Part 2

 

将臣は鼻歌を歌いながら下宿への道をたどっていた。

今日は彼の誕生日。

恒例となっている有川家と春日家合同のランチパーティが終わると、間髪入れずに裏口から実家を抜け出してきた。

(俺だって一応、かつては還内府と呼ばれた男。去年と同じ失敗はしないぜ)




そう、去年はうかうかと家にいたため、望美の殺人的プレゼント(「真昼の決闘」をご参照ください)の犠牲となったのだ。

大学生となった今、独り暮らしを満喫する彼には避難場所がある。

それに……

(フ、あいつら、いつごろ気づくかな)

自分の策に満足の笑みを浮かべながら、将臣は最後の角を曲がった。




と。




「あ! 将臣くん! 待ってたんだよ!」

「兄さん、どこに行ってたんだ。この暑い中、先輩を待たせたりするなよ」

「!!??!!」




あまりにも見慣れた二人の姿。

当たり前だ、さっきまで一緒にランチを食べていたのだから。

だが、安全地帯である自分の下宿でだけは、(少なくとも一人のほうには)会いたくなかった。




「の、望美、どうして……?」

「将臣くんは作戦がワンパターンなんだよ。ステレオかけて自分の部屋にいるようなふりして」

「先輩は三草山でのトラップも見抜いたんだから、引っ掛かるわけないだろ。いい加減学習しろよ、兄さん」




今日は俺の誕生日なんだぞ! と、思わず涙を浮かべて主張したくなるような、幼なじみと弟のひどい言い草だった。




「…………で、いったい何の用だ」

可能な限り目を逸らして、将臣はぼそぼそとつぶやく。

(せめて伏兵を置くべきだったな)などと後悔しつつ。

「じゃ~ん!! お誕生日おめでとう!!」

最も恐れていた言葉が、大音量で耳に響いた。

「望美スペシャル! 大幅バージョンアップ編だよ!」

「先輩、ここじゃなんですから。兄さん、いい加減、部屋に入れてくれよ」

「…………」




視線を上げないようにして、将臣はポケットから鍵を取り出した。

バージョンアップしたのは箱のサイズだけじゃないのか。

アップって、どっちの方向にアップしたんだ。

微かに震える手でドアを開け、部屋の中央にまっしぐらに進んでエアコンのスイッチを入れる。




「うわ、やっぱり暑いね~」

「鉄筋コンクリートならもうちょっと熱を遮ってくれるんでしょうけどね」

木造モルタルで悪かったな、福原も京もオール木造だっただろうが。

心の中で二人に突っ込みながら、将臣はドカッとテーブルの前に腰を下ろした。

「とりあえず座ったらどうだ。暑い空気は上のほうにたまるんだぞ」




「あ、そうか」と言って、望美がストンと座る。

やはり何か大きなものを抱えているのが見える。

将臣は最後の希望を込めて、譲に問い掛けた。

「で、おまえは何でついてきたんだ?」

「先輩が兄さんの下宿にプレゼントを届けるって言うから。一人じゃ行かせられないだろ、男の一人暮らしの部屋に」




俺は野獣か?

と、言い返したいのをぐっと飲み込んで、

「……じゃ、このプレゼントについては」

「先輩がこんな立派なものを用意していたなんて全然知らなかった。感謝しろよ、兄さん」


「おまえは去年のプレゼントを見てないからんなこと言ってられるんだよっ!!」


危うく叫び出すところだった。




「……つまり去年同様、望美が一人で用意したと」

「うん! 今年のはちょっと自信があるんだよ!」

満面の笑顔を浮かべる幼なじみを青ざめた顔で見つめながら、将臣は脳を必死でフル回転させていた。




しばしの沈黙の後。




「……譲」

「何?」

「今ちょうど、コーヒーが切れてるんだ」

「え?」

「俺のバイト先、知ってるだろ? いつもあそこで豆を挽いてもらってる。悪いが、ひとっ走り行ってきてくれ」

「え?! でも……」

「今日は誰の誕生日か覚えてるよな? 主役の言うことは聞くべきだろ?」




ふうっと大きなため息をつくと、譲は立ち上がった。

「まったく、兄さんは欲張りなんだから……」

あ~~、デジャブ~~と、将臣の心が涙を流す。

「じゃあ先輩、俺、コーヒー買ってきますから、先に始めててください。兄さんはどうしても先輩のプレゼントを独り占めしたいみたいだから」


「え~、譲くん、行っちゃうの?」

「望美!」

一緒に行きたそうな望美を一喝すると、将臣はきっぱり宣言した。

「お前の相手は俺だ! 尋常に勝負しろ!」




キランと戦神子の瞳が光る。

背筋を伸ばして座り直し、将臣を正面から見つめた。

「……その言葉、後悔しないわね」

「ああ、望むところだ」

バチバチと二人の間に火花が散る。




「俺の分、少しは残しておいてくださいよ」

まったく耳を貸す気配のない兄と望美にそれだけ告げると、譲は部屋を後にした。



* * *



数十分後。

玄関の扉を開けた譲は、去年と同じく半死半生の二人を部屋の中で発見したのだった……。




翌年、まだ二年生の将臣は担当教授に頼み込んで、夏の間、海洋研究所に詰めっきりになるゼミに入ったという。







 

 
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