永遠の誓い ( 3 / 4 )
ぱたりと、望美の手が敷布に落ちた。
すぐに寝息が聞こえだす。
精も根も尽き果てた、完全なる熟睡。
顔にかかる髪を静かにはらい、右手で頬から唇をそっとなぞると、譲はもう一度望美に口づけた。
お互いに初めてで、不慣れで、夢中で、必要以上に疲れさせてしまったと思う。
その瞬間望美が流した涙は、胸に突き刺さる気がした。
後悔と、とりかえしのつかないことをしたという絶望に似た恐怖。
けれど、望美が微笑んでくれたから。
「うれしい」と言ってくれたから、精一杯愛し、いとおしみ、想いを伝えることができた。
そうして今、少女から女性へと変わった望美の寝顔を、これまで以上にまぶしく、美しく感じている。
「愛しています」
今夜、何度も囁いた言葉をもう一度口に出す。
「あなたを愛しています」
無心に眠る身体をそっと抱き寄せる。
温かくて、柔らかくて、生命力に満ちあふれたこの世で最も愛する存在。
願いが叶えば叶うほど、距離が縮まれば縮まるほど、より深く愛したい、より近くにいたいという気持ちは強まるばかりで、このまま結婚したら、自分はどうなるのだろうと不安にすらなる。
「どんなに時が流れても、俺はあなたを愛し続けます。どうか俺のそばにいてください」
前髪に、額に、頬に口づけを落としながら、繰り返しつぶやく。
最愛の人とついに結ばれた夜、譲は一睡もしなかった。
* * *
「あれ、今朝は神子姫様はどうしたんだい?」
朝餉の席でヒノエが尋ねる。
「ちょっと体調が悪いんで、もう少し寝ているって…」
バツが悪そうに、目をそらしながら譲が答えた。
それに気づかず、
「まあ、風邪でもひいたのかしら。あとで様子を見に行くわね」
と朔が心配そうに言うと、
「神子姫様の世話は譲にまかせておけばいいだろ。なあ?」
と、ヒノエが意味ありげに言った。
「……そう……なの?」
朔が尋ねる。
「いえ、見舞って上げてください。ヒノエ、おかしなことを言うなよ」
譲はあわてて場を取り繕った。
京邸の廚の前。
「ああ、譲、ちょっといいか」
朝餉の片付けを終えて出てきた譲の腕をヒノエが強引に引っ張る。
「なんだよ」
「いいから黙ってついてこいって」
庭に回り込み、人気のない一角でヒノエが囁いた。
「いいか、女のほうが大変なんだから、せめて2、3日は望美を休ませろよ」
「な、な、何を……!!??」
思わず譲の声がひっくり返る。
「今さら隠すなよ。うまくいったんだろう? とにかく、今夜も…とか考えるなよ。
初めてはつらいんだから」
「ヒノエっ!!」
真っ赤になった譲を前に、ヒノエがクスリと笑った。
「まあ、おまえたちに必要なのはきっかけだったってことだよ。
俺が役に立ったのなら何よりだね」
その言葉に、譲は驚く。
「……おまえ……! 先輩が聞いてたのを知っていたのか?!」
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだい? 姫君の足音くらい、一里先からだって聞き分けるさ」
「熊野別当にそんな能力必要なのか?」
「相変わらず細かいね」
ヒノエが片目をつぶってみせる。
「まあ、これが俺の最大の餞ってとこかな。どんな宝より貴重だろ?」
「……………………………あ…ありがとう…」
「おまえ、ためすぎ」
「……」
譲は破顔した。
「……わかった。やっぱりおまえにはかなわないよ」
「何言ってるんだ。姫君を射止めた男がさ」
譲の肩に手を回して、二人で母屋のほうに向かいながらヒノエが言う。
「……で、俺に教わりたいこととかないの?」
「……あっても言わない」
「素直じゃないねえ」
「おまえの下ネタにつきあう気はないからな」
「……は大丈夫だったのか?」
譲の耳元にヒノエが囁いた。
「だから下ネタには……!」
「まさか……はないだろう?」
「え? ……なのか?」
「だって……ならさ」
「ちょっと待て、それは……」
二人の会話は案外と長く続いた(苦笑)。
|