見守る瞳

 



花が咲いた (柊の独白 / 忍人ルート)


回廊にひとひら、花びらが舞い落ちる。

この季節、わが君は部屋の扉を固く閉ざし、決して外に出ようとはしない。

政務を滞りなくこなし、接見した使節に笑顔さえ向けながら、彼女の心は永遠の闇の中を彷徨っている。




「君が……」

もの言わぬ亡骸が横たわっていた場所に目を向ける。

「君がわが君の御心を、黄泉に連れ去ってしまったのですね」




宮の者たちが気を遣って、桜の木を切り倒そうとしたとき、わが君は号泣しながら止めた。

もうどんな命も失いたくないと。

その絶望の深さに、皆は声を失った。




だから今年も、宮の中庭に薄紅の切片は舞い散る。

君を忘れることは、誰にもできない。

「忍人……君は本当にずるい人ですね」

生きていたなら、どれほど辛辣に言い返されたかわからない言葉。

今、返ってくるのは、冷たい沈黙のみ。




変えられなかった運命、変わらなかった既定伝承。

花びらの舞う中庭に佇み、私は独り、手の中の竹簡を握りしめた。




* * *





ほら、光はそこに (白龍の独白 / 譲ルート)


私の神子は、輝くような笑顔と清らかな魂の持ち主。

闇を照らす太陽の如く、人々の心に希望をもたらす。




けれど今、あなたは幼子のように小さく身体を丸め、まわりのすべてを拒んでいる。

あの日……譲の命が失われた瞬間から。

心に映るのは過去の思い出と、波のように繰り返し打ち寄せる後悔。

頬を涙が濡らしていないときも、あなたの魂は泣き叫び続けている。




神子、あなたは何度も拒んだけれど、どうか私の欠片を使って。

指先から少しずつ冷えていくあなたを見ていることができない。




欲する光はすぐそこ……隣り合う時空にあるのだから。

どうか扉を開いて、美しい笑顔を取り戻して。

私の欠片を、今、あなたにあげるから……。




* * *




君を愛している (友雅の独白 / 鷹通ルート)


少しはにかんで微笑む君。

その視線の先に、見たこともないほど柔らかな光をたたえた瞳。

初めて会う人間でも、君たちがどれだけ深く想い合っているかはすぐにわかるだろう。




あと半月もしないうちに、二人は京を去るという。

月の姫はその身ばかりでなく、彼女に心囚われた公達まで連れ去るのか。

この世のすべては泡沫の夢、失うことに痛みなど覚えないと思っていたのに。




まいったね、神子殿。

君は私の心に情熱を思い出させ、それと同時に、さまざまな苦痛さえも甦らせた。

君というかけがえのない光。

そして、私の傍らでいつも私を照らしてくれていたもう一つの…光。

その両方が、もうすぐ永遠に消えてしまう。




私は君を愛しているよ、神子殿。

君がもたらしたものすべて、そして、君とともに消えようとしているものすべてを心から愛している。

微笑みながらそれらを見送るのが、私に与えられた罰…なのかもしれないね。




* * *




雨上がり (勝真の独白 / 幸鷹ルート)


いつも気丈に笑っていたあいつが、真っ青な顔でブルブル震えてすがってきた。

「幸鷹さんが戻らない」

と。

検非違使庁でも行方をつかみかねていると聞いて、俺は馬を駆り、幸鷹の巡察先をしらみつぶしに当たった。

途中、翡翠やイサトも加わり、泰継の式神も動員して、ようやく探し当てた山中。

土砂降りの雨の中、崖下に転落した牛車の中で幸鷹はまだ生きていた。




必死の手当と、徹夜の看護。

何日も何日も眠らずに、花梨はその枕辺に寄り添った。

あんなに八葉全員に気を配っていた奴が、幸鷹だけを見つめ、幸鷹だけを気遣い、その手を握り続けた。




長い雨が上がるとともに、幸鷹は意識を取り戻し、俺たち一人ひとりに礼を言った。

その言葉で夢から醒めたように、花梨が俺たちを見つめる。

「私……」

「今度は君が休む番だよ、かわいい人。その後で私たちに笑顔を見せておくれ」

遮るように、翡翠が口を開く。

俺たちはわかってしまったから。

神子という立場を離れたとき、おまえの心が誰に向けられているかを。




幸鷹の邸の門を出ると、雨上がりの真っ青な空が広がっていた。

少し眩しすぎる光に、俺たちは顔を見合わせ、苦笑いする。

そう、明日からも怨霊退治は続く。

俺たちはあいつの八葉なんだから……な。

 

 
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