魔法のベルが鳴るとき ~ヒノエ・譲編~ ( 4 / 4 )
家に帰ったとき、譲はぐったりして、部屋に引き篭った。
「何なんだよ、あの男は」
深い溜め息を吐いて、ベッドに突っ伏す。
あの後何人に告白された?
どれだけ声を掛けてるんだ。いや、惚れられているんだ。
そりゃ、確かに綺麗な顔をしているし、もてるだろうとは思うけど。
自分が断っていいものか戸惑いつつ、受けるわけにはいかないから、断ったけれど、神経が磨り減った。
仰向けになって、もう一度深い溜め息を零す。
いつもより赤い顔で、いつもよりはしゃいで見えた望美。
そうだよな、女の子はああいう優しい王子様みたいなヤツが好きだよな。
心の中で呟いて、目を閉じる。
昼間の望美の笑顔が、嬉しくて痛い。
『ダメなものはダメ』
昼間の女性の言葉が耳に残って、苦しい。
「譲くん」
幻聴まで聞こえる。
「寝ちゃった?」
心配そうな声に、パチ、と目が開いた。
「先輩?」
「大丈夫?」
朔からの差し入れ、と、カフェオレのカップが並んだトレーを差し出す。
慌てて起き上がり、望美と二人でベッドに腰をかける。
「凄く疲れたみたいだけど」
「ええ、まぁ」
「楽しくなかった?」
「そういうわけでは…それなりに楽しかったですよ」
苦笑する譲に、拗ねたように望美が言った。
「いろんな女の子と話してたもんね」
「え?」
「…何でもない」
不思議そうな顔をすると、望美が慌てて首を振った。
「先輩こそ、楽しそうでしたよ。いつもより真っ赤で……はしゃいでたようで」
「だ、だって、ヒノエくんったら、耳元でささやくんだもん」
ああ、やっぱり、という思いが強い。
苦笑気味に笑って見せれば、望美が一段と赤くなって、言い訳のように早口で言った。
「譲くんの声で『綺麗だよ』とか『可愛いね』とか『愛してる』とか!
挙句に『望美』って呼び捨てにされて!!
譲くんに名前で呼ばれるなんて久しぶりで、なんていうか、恥ずかしくて照れくさくって!!」
でも、嬉しかった。
最後の言葉は飲み込んで、望美が赤い顔で譲を見た。
「ああ……それは戸惑いますよね」
いくら違うと分かっていても、声は慣れ親しんだものなのだから。
譲が納得したように頷く。
「ね、戻ったら、譲くんも呼んで見てよ。『望美』って」
そう強請ると、少しだけ眉を下げて、けれど優しげに微笑む。
姿はヒノエだけれど、いつもの譲の柔らかな笑み。少し控えめで、けれど揺るがない、そんな強さを垣間見せる穏やかな笑顔。
これが、凄く好きだと思う。
ふと、いつもより視線が近いなと思い、朝の会話を思い出して、望美が言った。
「男の子って、やっぱり背が高い方が、いいのかな?」
「人それぞれでしょうが…そうですね。大きい方が、守れるかなって思います」
「そう? でも、私、そんなに大きくなくてもいいと思うな」
「どうしてですか?」
「だって、顔が近くにあるから」
普段背の高い譲と視線を合わせるのは、大変なのだと望美が笑った。
「今くらいだと、丁度いいかも」
「ヒノエが喜びそうだ」
言いながらも、確かに望美の表情がよく見えたなと、譲は思った。
「キスもしやすいし」
「ええ!?」
焦る譲に、望美が笑った。
楽しそうに笑う望美に、譲も笑みを零す。
「ねぇ、譲くん。違う視線って、面白いね」
「そう、ですね。普段見えないものも、見えるから」
貴方の声だから熱くなる。
貴方が作る表情だから、惹き付けられる。
どうかこのことに、早く気付いて欲しい。
愛しいのは、貴方なのだから。
次の登校日。
クリスマスのあの日、望美に積極的に触れて囁く譲(の姿のヒノエ)と、真っ赤になって照れまくる望美を目撃した人間により『有川譲、ついに春日望美を口説き落とす』という噂が蔓延していて、質問攻めに合うのだが、譲はまだ知らない。
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