今、何してる? ( 4 / 4 )
あなたからの手紙で、今、何をしているかと聞かれたので、ストレートに書きますね。
私がいるのは広い控室。
そのドレッサーの前で、この手紙を書いています。
「望美さん?」
ペンを握って手紙を書き始めた私の背中に、譲くんが声を掛けた。
「あ、すみません、邪魔しちゃって」
私はペンを置いて振り返る。
「ううん。もしかして誰か呼んでる?」
「ええ、式場係の人が段取りを確認したいって」
「わかった!」
書きかけの便箋をぱさりと閉じると、椅子から立ち上がった。
控室のドレッサー兼デスクは、十分な広さがある。
このまましばらく放置しても問題はないだろう。
「いいんですか? 係の人に少し待ってもらっても」
「いいの。急ぐ手紙じゃないし」
譲くんは私の肩越しに、デスクの上の封筒に視線を投げた。
「それ、さっき、おばさんが届けてくれた手紙ですよね。
俺の気のせいじゃなければ……」
「うん、私の字だよ。自分で書いた自分宛ての手紙。
4年前に書いたのが、昨日実家に届いたんだって」
「4年前……っていうことは、あなたが大学生のときですか?」
一緒に控室を出ながら、二人で会話を続ける。
「そう。最初は中学3年のときに、高3の自分宛てに授業で書いたの。
私たちの担任の先生って、そういうの好きだったんだよね。
譲くんたちは書かなかった?」
「ええ、そういうのはなかったですね。
中学3年の自分からの手紙か……」
譲くんは少し考え込んだ。
「どうしたの?」
「いえ、俺が書いたらさぞかし暗い内容だったろうと思って。
望美さんのは……何となく想像がつきますけど」
「ちょっとそれ、どういう意味?」
プンと頬を膨らませると、譲くんがとろけそうに笑った。
「きっと明るくて生き生きしてるんだろうなって。
あと、多分兄さんのことがたくさん書いてあるだろうなって」
「譲くんのことも結構書いてあったよ。あとで見せるね」
「いいんですか?」
「いいよ! どうせ能天気な内容だもん!」
私が言い切ると、譲くんがくすくすと笑う。
「大学4年の私から、『譲くんのそばで、譲くんを支えていますか?』って聞かれちゃった」
会場の入り口に着くと、私はそうささやいた。
「あなたはいつでも……俺の心を受け入れてくれる前からずっと、俺の光で、俺の拠り所でした」
「だったら私も同じ言葉、譲くんに返すね」
開かれたドアの向こうに、数時間後に私たちを祝ってくれる人が集う会場が見える。
決して大きくはないけれど、これなら隅々まで回って感謝の言葉を伝えられるだろう。
「……本当は八葉のみんなや、朔や、白龍にも出てほしかったな」
「白龍だけは、もしかしたらこちらの世界を覗けるかもしれませんね」
「そうだといいな。ちゃんと幸せになってるって、伝えたいもの」
「……今、幸せだって、言ってくれますか?」
「当たり前でしょ! これから毎日、嫌ってほど耳元で言うよ」
「そうしてください。俺も安心できる」
「有川様、こちらにお願いいたします」
私たちの姿を見つけた担当者が、声を掛けてきた。
「行こう、譲くん」
彼の手をぎゅっと握り、一緒に歩き出す。
あとで控え室に戻ったら、あの手紙の続きを書こう。
15歳のときから綴ってきた、私が歩んだ道のり。
最初は無意識に、けれど途中からは心から望んで、譲くんと一緒にたどってきた。
今日はひとつの節目ではあるけれど、これからもずっと先まで、道は続いていく。
だから私は、きっと未来の自分に問い掛け続けるだろう。
「ねえ、今、何してる?」
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