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2人の白虎(2) ( 2 / 4 )

 



「私の仕事は……司法関係…ですね。法務省管轄の」

立法から司法まで担い、治安維持をも職としていた検非違使別当の仕事を現代風に言い表すとそうなってしまう。

「なるほど……昔で言うなら検非違使庁ですか」

鷹通にいきなりそう言われて、幸鷹は面食らった。

「あの、鷹通さんは研究テーマが日本の律令制の歴史だから、すぐそういうたとえをするんです」

あかねがなぜか冷や汗をかきながらフォローする。

彼には普段からこういう癖があるのだろうか。

「そうですね。まさに検非違使庁の仕事に近かったと思います」

「私の場合は……お分かりになるかどうか……昔の治部省にあたる仕事をしておりました」

聞き慣れた役所の名を挙げられて、幸鷹はにっこりと微笑む。

「戸籍と寺社の管理…ですね。後者は現代では管轄が異なりますが」

「よくご存じで」

鷹通も安心したように笑った。




そのとき、喫茶店の扉がガランガランというカウベルの音を響かせて開いた。

「お、鷹通! ここにいたのか!」

「あかねちゃん! またお菓子焼いたんだよ!」

高校生らしい私服の2人が、幸鷹たちの席を目指してドヤドヤと歩いて来る。

「…って、鷹通、親戚か何かか?」

テーブルの前に立って、初めて幸鷹の存在に気づいた少年は言った。

「もう、天真くん、失礼でしょ!」

「天真殿、とりあえずお座りください。詩紋殿も」

「……?」

違和感を感じて幸鷹が鷹通を見つめる。

「おじゃましちゃってごめんなさい。僕、流山詩紋です」

金髪の少年--詩紋が申し訳なさそうに言った。

鮮やかなブルーの瞳から考えると、髪も本物の金髪なのだろう。

「俺は森村天真。あかねの同級生だけど…」

「藤原幸鷹と申します。初めまして」

「やっぱ親戚か! ん? いや、でもそんなわけない……?」

「もう、天真くん、勝手に決めないでよ」




「まあ、姓が同じということは、どこかでつながっているのかもしれませんね」

さっき偶然会っただけだという3人の説明を聞いて、驚く天真に幸鷹は言った。

「だけど、雰囲気とかかなり似てるし。鷹通の兄貴だって言われても納得するよな」

「うん。見た目とかより、雰囲気…だよね。僕も、鷹通さんといるような気がするもの」

「それは……幸鷹殿に失礼ですよ」

鷹通が苦笑して言った。

「………」

幸鷹が黙り込んでいることに、あかねが気づく。

「幸鷹さん?」

「…いえ、その……」

「「「「………」」」」

「あっ! 鷹通! 呼び方っ!!」

天真が鋭く言った。

「あ…!」

「ゆ、幸鷹さん、これは鷹通さんの癖で…!」

「鷹通さん、時代劇好きだから!」

バタバタと慌てる4人を冷静に眺めながら、幸鷹はテーブルの上で手を組むと、

「……何か特別な理由がおありのようですね。ご説明いただいてもよろしいですか?」

と、検非違使モード全開で尋ねた。




「説明……しても、とても信じてはもらえないと思うんですけど……」

あかねが困ったように言う。

「…あかね殿、ここは私が…」

もう「殿」がカミングアウトしてしまった鷹通は、あかねをそう呼んだ。

幸鷹の胸に懐かしさがこみ上げてくる。

「っていうか、何で説明する必要があるんだよ! これはこいつの口癖。それだけだよ」

天真が吐き捨てるように言った。

それをまっすぐ見つめながら、幸鷹が口を開く。

「……神子殿…」

「「「「!?」」」」

「……と、かつて私も呼んでいたことがあります…」

場の空気が急にピンと張りつめた。




「…誰…を?」

しばらく後、あかねがようやく口を開く。

大きな目は見開いたまま。

それを穏やかに見つめながら、幸鷹は続けた。

「……京を救うべく、選ばれた女性を」

「!!」

驚いて身体を引いたあかねの肩を鷹通が支え、

「…龍神の…神子を…ですか」

と尋ねた。

こくりと幸鷹がうなずく。

「私は、八葉でした」