『遙かなる時空の中で4』

忍人×千尋

 


2012年師走・天


落葉


落葉の舞い散る林の中に、千尋が一人佇んでいた。

(姫とは言え年若い娘。それなりに悩みがあるのだろう)

物陰から警護しながら忍人が考えていると、那岐が通りかかった。

「何やってんの、千尋」

「那岐~! どうしてこっちにはサツマイモがないの?

焼き芋やりたいのに!」






袖をつかまれ、振り返ると青ざめた顔が俺を見ていた。

「千尋?」

「ごめんなさい。でも…」

瞳が潤む。

「忍人さんが…消えちゃいそうで…」

「俺が?」

ほかに人がいないのを幸い、細い肩を抱き寄せた。

「俺はここにいる」

「はい…」

この見事な桜が、彼女に幻を運んだのだろうか。




まずい

那岐が二ノ姫の作った食事に文句をつけていた。

延々と言いあっているので、「十分うまいと思う」と俺の意見を述べる。

二ノ姫がうれしそうにこちらを見るので、

「火が通っているだけでありがたい。味までついている」

と言い添えると、なぜか場の空気が凍った。

なぜだ。




絡まる


黒き手から逃れるため、自ら断ち切った髪。

「もうあちこちに絡まったりしないし、戦いにはこっちのほうが向いてますよね」

私がそう言うと、忍人さんが

「元の長さに伸びるまでに、君が戦う必要のない国を作ろう」

と一言。

厳しい言葉より泣けてくるからやめて…。





2012年師走・地


靴下


「忍人、この中に贈り物を入れるんです」

「ずいぶん不規則な形だな。袋では駄目なのか、風早」

「習慣ですから」

「なぜ直接渡さん」

「朝起きた時、ぱあっと喜ぶ顔を見るのがいいんですよ」

「見たのか」

「ええ、毎年」

「…」

「今年は一緒に見ますか?」

「ば、馬鹿を言うな!」






【風早視点】

冷たく澄み切った水には魚が住まないという。

その鏡のような水面に、偶然落ちた花びら。

「まったく、君には調子を狂わされる」

「だって忍人さんが…」

君が本来持っていた温かさを、千尋は無意識に引き出していく。

気づけば君も微笑んで…。

よかった。

誕生日おめでとう、忍人。




祝福


真っ白に染まった大地に思わず声を上げる。

「きれい…!」

「すっかり積もったな」

橿原宮の見晴らしのいい場所に、私を連れてきてくれた忍人さん。

「春には雪解け水が田畑を潤す。これも天からの授かり物だ」

「中つ国を祝福してくれるみたいですね」

私の言葉に彼が微笑んだ。






頬に触れた手が温もりを感じる。

これは君の涙。

戦いの後に倒れた俺を、一睡もせずに看病していたという。

君の笑顔を守りたくて戦っているのに、いつも泣かせてしまうな。

いつか目覚めると、そばに君の笑顔があるような、そんな平和な日々を迎えられたらいい…。









 
素材提供:うさぎの青ガラスさま