『遙かなる時空の中で』
鷹通×あかね
2012年師走・天
悦
「うまいタイミングで出られたな」
久々にあかねと二人きりで洛中に出た天真は、悦に入っていた。
「あ、鷹通さんだ」
「何?」
「こんにちは、神子殿。天真殿とお二人ですか?」
「みんな都合悪いみたいで」
「それは心細いですね。では、私もご一緒しましょう」
「何ーっ?!」
故郷
先祖は異国から来たと思われる鬼の一族。
けれど今、京に暮らす彼らの故郷はこの地のはずだ。
一方が他方を滅ぼすのではなく、共存する方法を見つけたい。
「馬鹿なことを」と苦笑する人々の中で、神子殿だけが私をまっすぐ見て頷いてくれた。
だから諦めずに努力できる。
報い
生まれて初めて、心から好きな人ができた。
これは京を守って戦う私へのご褒美。
けれどもうすぐ、その人と永遠に会えなくなってしまう。
これは、神子が八葉を好きになってしまった罰。
「報い」という言葉には両方の意味があるけれど、私が選ぶのはきっと…。
細
「触感が一番だが、触れられない場合は肌理だね。それに張りと色」
「なるほど」
「友雅さん、鷹通さんに何を教えているんですか!」
「女性の肌で年齢を知る方法を教えてくださると」
「シリンが君に化けていてもわかるようにね」
「…」
「神子殿?」
「何かちょっと嫌…」
「?」
2012年師走・地
霜
ガラス1枚隔てた庭には一面の霜。
その光景を温かい部屋の中から見ることにまだ慣れない。
体が京の寒さを恋しがっている。
「鷹通さん!」
突然ガラス戸が開き、冬の冷気と笑顔が一度に飛び込んできた。
私の世界を開くのはいつでもあなただ。
笑顔を返しながら、鷹通は思った。
欠片
<友雅>
心のかけらと称するものを神子殿が取り戻すうち、
鷹通の表情がずいぶんと豊かになってきた。
まるで初めて内裏で会った、幼いころのように。
大人の仮面の下から顔を出す日輪の情熱は、本来の彼自身だ。
すべてのかけらが揃ったとき、君はいったいどんな道を選ぶのだろうね。
重
どれほど言葉を尽くしても、伝わらない想いがある。
言葉よりも雄弁な、交わす眼差しがある。
共に過ごしながら、少しずつ心を近づけていきましょう。
積み重ねた時が、やがて私たちを新しい場所に導いてくれるから。
あなたの傍らにいることを、どうかお許しください、神子殿。
犬
「藤姫には子猫を贈りましたが」
ペットショップの前で鷹通さんが言った。
「女性が自由に外出できるこの世界では、子犬を贈るのもいいですね」
「あ、でも犬は家族で飼うほうがいいんですよ!」
「では、もう少し先に」
「はい! ……え」
にっこり微笑まれて、頬が熱くなる。
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