突然の問い掛け

 



朝の土御門にて




「すごく好きな人ができて、寝ても覚めてもその人のことばかり考えてしまうときは……どうすればいいと思いますか?」

「え……それは……。困りましたね。私もいまひとつ、その状態の解決策を見いだせていないのです」

「え? ということは、鷹通さんも同じような状態になったことがあるんですか?」

「……そう、ですね。起きている間はもちろん、夢にまで見る……そんな状態なら」

「鷹通さんが想う人って……きれい?」

「はい。まぶしい光のように美しい方です」

「光……」

「微笑んでいただけると、私の心にあかりが灯る気がします。そして別れてからも、何度も明るい笑顔を思い出してしまう……。そんな方です」

「そう……なんだ。すごいですね」

「ご本人には、まったく自覚がないようですが」

「そ、それを言うなら私が好きな人だって…! 声を聞くだけで胸がドキドキするのに、いっつも穏やかで、全然気づいてくれなくて」

「そうなのですか?」

「そうです! 私が一人で勝手に一喜一憂して、泣いたり舞い上がったり。自分でも馬鹿みたいだと思うけど……」

「……神子殿?」

「でも、その人のことを考えているときが一番幸せなんです。一緒に話したことを一つひとつ思い出して、そのときの笑顔や声の調子まで、何度も頭の中で再現して……」

「「……でも、気持ちを伝えられない」」




「え?」

「あ!」

「た、鷹通さんも?!」

「神子殿も、……なのですか?」

「だ、だって、大切な役目を果たしている最中に、そんなこと言ったら迷惑だろうし」

「何よりもその方の心の負担となるような真似をしたくない……」

「……そうですよね。断りにくいだろうし……」

「お優しい方ですから、断るにしても悩まれるでしょう……」

「……やっぱり、この想いは心の奥にしまうべき……なのかな」

「……そういうことなのかもしれません………」




「友雅、敵に塩を送るとわかっていても、あいつらを何とかしたいと思う俺は変なのか?」

「いいや、天真。私も同感だよ。塩……はよくわからないが」

「天真先輩、それ、武田信玄と上杉謙信だからもっと後だよ」

「あ、そっか。よく知ってるな、詩紋。…じゃなくて、今はあの二人をだな…!!」

「まったく、鷹通ときたら。普段はよく気が回るくせに、色恋のこととなるとなぜああも鈍くなるのか」

「それはあんたの悪影響だろ」

「友雅さんをそばで見てたら、いろいろと慎重になります……よね」

「おや、言ってくれるね、天真、詩紋」




「あの、鷹通さん、その……たとえ想いは伝えられなくても、そばにいたいって思うのは構いませんよね?」

「はい。その方に拒まれない限りは、と、私は思っておりますが……」

「大丈夫です! 鷹通さんがそばにいるのを嫌がる人なんていませんよ!」

「そ、そうでしょうか」

「私こそ、そばにいたくて無理やり誘ったりしていないか不安だけど……」

「神子殿のおそばにいることを、厭う人間などおりません。あなたは京にとっての太陽、私の光……」

「え?」

「い、いえ、何でもありません。それでは神子殿、あまり遅くなってはいけませんので、そろそろ参りましょうか」

「はい! 鷹通さんと一緒なら、どこへでも!」

「神子殿」

「あ! ご、ごめんなさい。また一人で勝手に盛り上がっちゃった」

「いえ。そう言っていただけてうれしいです」

「……はい」




「……あれだけお互いに言ってて気づかないとか、ねーだろ……」

「あかねちゃん、名探偵にはなれないね」

「天真、前言撤回だ。このままもうしばらくあの二人を見ているほうが面白い」

「友雅、てめえ」

「誰かに気づかされるより、お互いに自然に悟るほうが本人たちのためだろう?」

「それが永遠にできなさそうだから、天真先輩がイライラしてるんだと思いますけど……」

「詩紋、多少遠回りしたほうが、お互いの想いは深まるものなのだよ」

「あんたが遠回りするの、見たことねえんだが」

「だから私の恋は短いのだろうね」

「はあ……って、僕、ここで納得していいのかな…」




お互いの心に気づくまで、あと一歩。

周囲をやきもきさせながら、あかねと鷹通の恋は少しずつ少しずつ距離を縮めていくのだった。




ごちそうさま!!








 

 
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