足往のお誕生日
常世との戦が終わった後の橿原宮。
キョロキョロと辺りを見回しながら中庭を歩いていた千尋は、足往の姿を見つけると、ダッシュで駆け寄った。
「足往~! お誕生日おめでとう!!」
満面の笑みで差し出したのは、布に覆われた大きなカゴ。
「おたん……? それ何だ? 姫さま」
「二ノ姫がいた世界では、生まれた日を毎年祝うのだそうだ。おかげで毎月誰かしらを祝うはめになる」
護衛なのかデートなのか、このところ常に千尋のそばにいる忍人が横から説明した。
「だって、その人がこの世に生まれてくれたことに感謝して、また素晴らしい1年を過ごせるようお祈りする素敵な日ですよ。祝う回数が多いってことは、大切に思う人が多いってことですから、喜ぶべきです!」
「…………」
いかにも不機嫌そうな忍人の顔を盗み見た足往は、千尋の手にカゴをそっと押し戻す。
「ひ、姫さま、オレはいいや。姫さまは忍人さまの誕生日だけを祝ってやってくれよ」
「な!?」
「え? どうして?」
「だって……」
さすがにまずいと思ったのか、忍人が足往の顔を覗き込んだ。
「足往、変な遠慮はするな。姫が祝いたいと言うんだ、祝ってもらえ」
「そうよ足往、このお菓子、カリガネに作ってもらったの。狗奴の皆さんと食べてちょうだい」
「……いいのか?」
「「当たり前だ/よ」」
「じゃあ……ありがとう、姫さま!」
足往の弾けるような笑顔に、忍人の表情もほぐれた。
「どういたしまして。そういえば足往、少し背が伸びた?」
手をかざして、千尋が背比べをする。
「ああ、前には届かなかった棚に手が届くようになった!」
「力も強くなったようだな。鍛錬の賜物だ」
忍人の言葉に、足往は目を輝かせる。
「俺、早く忍人さまみたいな戦士になりたいんだ!」
「あら、足往は狗奴の一族なんだから、そのうち忍人さんよりずっと大きくなるわよ。ね、忍人さ……」
「…………」
「ひ、姫さま!」
「あれ、忍人さん、どこに行くんですか?」
「姫さま、今の一言だけは言っちゃいけなかったと思う」
「え? 何で? と、とにかく追いかけるね。忍人さ~ん!!」
「あ~あ…」
しばらく後、宮の裏手の木立の中で、木の幹を連打する音が響いた。
「まったく! 何が誕生日だ!」
ゲシ! ゲシ!
足往に見下ろされる日が来るということが、まだどうしても受け入れられない忍人の八つ当たりだった……。
将軍~~!
ということで(?)
足往、お誕生日おめでとう!!
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