有川譲の日記
今夜は中秋の名月。
ということで、お月見用に団子を作った。
習慣的に毎年1つだけ黄色い団子を作っていたが、それをめぐって兄さんと先輩が毎回ケンカするので、去年は全部黄色い団子にしてみた。
二人のあっけにとられた顔が忘れられない。
十分反省したように見えたので、今年はいつものように黄色い団子を1つ作って、積み上げた白い団子の上に載せてみた。
兄さんと先輩はおとなしく団子を食べていたが、あえて黄色い団子には手を伸ばさないのが見ていて不気味だった。
お月見の宴会が終了。
三方の上には黄色い団子が1つだけ残っていた。
兄さんと先輩が牽制しあうように見詰め合っていて、いつまでも片付かないので、俺は
「どっちでもいいから早く食べてくれよ」
と、声を掛けた。
その瞬間、二人の視線がカチリと合って、いきなり俺のほうに向かってきた。
「?!」
驚いて開いた俺の口に突っ込まれたのは黄色の団子。
「なんだ、望美もそのつもりだったのか」
「将臣くんこそ! だったらもっと早く動けたのに!」
わけがわからずに目を見開いたまま硬直していると、
「お前、黄色い団子も赤や緑の冷麦もほしがったことないよな」
「私たちがいっつもわがまま言ってたから、最初からあきらめてたんでしょ?」
と、妙にものわかりのよさそうな顔で言いだす。
言い返すため、あわてて団子を飲み込もうすると
「ば~か、取り上げたりしねえよ。お前も少しはわがまま言えよ」
「どうしようもない年上コンビでごめんね。譲くんにはいつも気苦労させちゃってるよね」
と、あろうことか、先輩は俺の頭まで撫で始めた。
勝手に決め付けて、勝手に謝って、どこまでも本当に勝手な年上の二人!
俺はそんな二人が……
大好きなのがものすごく悔しかった。
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