雨日和 ( 1 / 2 )
「うわあ…! きれいですね!」
「わが家の塗籠にあったものなのですが、よろしければお受け取りください」
「え?」
目の前に広げられた色とりどりの端切れから目を上げて、あかねは鷹通を見た。
「こんなに素敵な物、もらっちゃっていいんですか?」
くすっと微笑んで鷹通が答える。
「ええ。わが家は男所帯ですから、誰も興味を持たないのです」
今日は、朝から雨が降り続いている。
物忌みでどうせ外出できないとはいえ、ただ屋敷の中に籠っていては気も沈む。
あかねに招かれた鷹通は、一計を案じ、鮮やかな錦の端切れを自宅から持参した。
繊細な綾模様や、金糸・銀糸の縫い取り、絹の滑らかな美しい光沢に、あかねは目を見張る。
「これでパッチワークを作ったら、和風の素敵な敷物ができそうですね。
ナプキンとかランチョンマットにもできるかな」
「ぱっち……?」
「あ、ごめんなさい!」
自分の頭を軽く小突いて、あかねが説明を始める。
「私たちの世界では、こういう端切れをきれいに縫い合わせて敷物を作ったりするんです。
どの布とどの布を組み合わせるか…とか、考えるの楽しいんですよ」
「なるほど。たとえばこういった組み合わせなら、秋の紅葉のようですね」
黄、橙、朱、紅の布をいくつか集めて、鷹通が床に並べる。
「うわあ、すごい、鷹通さん! じゃあ私は…」
四季の彩りを表す組み合わせを選ぶのに、あかねは没頭し始めた。
その生き生きとした横顔を見て、どうやら自分の発案はうまくいったようだと、鷹通は安堵する。
慣れない京で、元の世界とは比べ物にならないほど不自由な生活を強いられて、それでも明るさを失わないあかねに、鷹通は強く惹かれていた。
その想いの強さに、時折、自分自身でも戸惑ってしまう。
八葉という立場に対する自覚が、かろうじて彼の情熱を塞き止めていた。
ふと、庭の景色が御簾越しに目に入る。
降り続く雨は、時折薄日さえ射すほど明るく、暖かい。
春から夏へ、季節は確実に歩みを進めていた。
(京が盛夏を迎える前に、この方は元の世界に帰られてしまう)
できれば季節の移ろいを、時の流れを止めてしまいたいと、鷹通は強く思った。
(京を…民を一刻も早く救いたいというのも、心からの願いだというのに……)
「あ!」
あかねが声を上げた。
「何かありましたか? 神子殿」
鷹通が膝を進めて傍に寄る。
「ほら、これ! 鷹通さんの直衣の端切れですよ!」
山吹色の布を、うれしそうに鷹通の袖にあてる。
布は、吸い込まれるようにぴたりと重なった。
「ああ…そうですね。わが家の端切れですから、私の着物の分も含まれているでしょう」
「じゃあ、単の分もあるかな」
端切れを探す目が真剣になる。
(どうやら目的が変わったようですね)
鷹通が笑みをこらえながら眺めていると、単と帯と袴と、それぞれの端切れをあかねが次々と見つけ出した。
「やった〜! バッチリそろった!」
得意顔で報告する。
「お見事です。が、いったいそれをどうなさるのですか?」
「え……」
あかねは、手元の布を見直した。
そこまでは考えていなかったらしい。
「……お人形を作ろうかな…」
しばらく思案した後、ポツリと言った。
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