雪・雪・雪……雪
京都・あかねの高校付近 夕方
「! 鷹通さん! どうしたんですか?」
「所用で近くまで参りましたので、そろそろ下校時刻かと思いまして」
「すごくお待たせしちゃったんじゃないですか? ごめんなさい!」
「いえ、私が勝手にしたことですから」
「メールくれれば」
「私は、こちらの世界の方よりも待つことには慣れているのですよ」
「でも」
「それに……」
「? あ!」
「……やはり降り出しましたね」
「雪?! 予報では曇りだったのに……」
「こういう気配も、私のほうが感じやすいようです」
「もしかして、雪が降るから迎えにきてくれたんですか?」
「あいにく傘は1本しか持ち合わせていませんが」
「! ……そのほうが」
「……え?」
「いえ、あの、じゃあ、入れてもらっていいですか?」
「もちろんです。狭くて申し訳ありません」
「ううん。すごく……うれしいです。鷹通さん、ありがとうございます」
「あかねさんのお役に立てたのなら幸いです」
* * *
京・石原の里 朝
「うわあ、きれい!」
「神子殿、足元にお気をつけください。雪の下が平らだとは限りませんので」
「あ! そ、そうか。はい、気をつけます」
「私の横を歩いていただければ、いつでもお支えいたしますよ」
「え、あ、……はい」
「……子犬のように新雪の中を走り回りたいお気持ちはお察しいたしますが、
今日のところはこらえてください」
「え?! そ、そんなふうに見えましたか?!」
「目がキラキラと輝いて、尻尾まで見えそうな勢いでした」
「ええええ、ど、どうしよう! 雪ってどうしてもテンション上がっちゃって」
「そうですね。私も雪の朝はとてもうれしかったです。父や母はうんざりした顔をしていましたが」
「今は、うれしくないんですか?」
「今は……今は、そうですね。神子殿とこうして歩いていることのほうがうれしく思います」
「!」
「平和を取り戻した京を、ともに歩けるのは何よりの喜びですから」
「……あ……そうです……よね」
「それに」
「!!」
「誰よりも愛する方の手を、こうして取ることができる。これに勝る喜びはありません」
「………………幸鷹さん」
「本当の気持ちですよ」
「なんか……ずるいです……///」
* * *
鎌倉・有川家近辺 朝
「うわ、一晩でずいぶん降りやがったな。駅前の坂が思いやられるぜ」
「将臣くん、将臣くん」
「何だ、のぞ……うわわあああっ!!」
「に、兄さん!」
「あ、ごめん、思ったよりたくさんかかっちゃった!!」
「馬鹿野郎、竹を揺らせば雪が落ちるのは当たり前だろう!」
「結構積もってたんだね…って……きゃあーっ!!」
「先輩!!」
「うわ!! ……ったく、お前が雪かぶってどうするんだよ、譲!」
「将臣くん、ひど〜い! 私がかけたのの倍はあったよ。譲くん、大丈夫?」
「俺は平気です。兄さん、先輩は女の子だぞ! 兄さんとは作りが違うんだから」
「おう、俺よりよほど頑丈にできてる」
「天誅」
「ぶわあああああっっ!! 望美! いっぺんに何本揺らしてるんだ!!」
「もう、二人ともいい加減にしてください!! 先輩も兄さんも竹に近づくのは禁止!
駅までは道の真ん中を一列に歩くこと! いいですね」
「「は~い……」」
* * *
橿原近辺・天鳥船 夜
「では、明日の朝もう一度近辺の探索を行う。雪を突いて攻めてくる可能性もある。油断するな」
「「「は!」」」
「ご苦労だった。……!? 誰だ?」
「…………」
「二ノ姫! こんなところで何をしている? また供なしで歩き回っていたのか。
まったく君は…… ! どうした? なぜ泣く?」
「……だって……」
「……とにかく、落ち着いてくれ。……そこに椅子がある、さあ、腰を下ろして」
「雪が……」
「雪? 確かに降っていたが、それがどうした?」
「忍人さん、具合が良くないのになかなか戻ってこなくて……雪がどんどんひどくなって……」
「……俺が?」
「心配で……待ってるのがつらくて……」
「馬鹿な。狗奴の兵たちも一緒だ。たとえ一人でもこのくらいの雪で迷ったりしない」
「わかってるんです。でも、花びらみたいな白い雪の中に、
忍人さんが消えてしまいそうな気がして、どんどん不安になって……!!」
「……千尋」
「ごめんなさい……!」
「……………君は……」
「………」
「………いや」
「………」
「……心配をかけてすまなかった」
「……え……?」
「せめて君の身体の震えが収まるまで……こうしていよう」
「……!……」
「俺は、ここにいる。君のそばに」
「……ずっと……?」
「ああ、約束だ……」
「約束……ですね」
「ああ」
喜びも悲しみもすべてを覆い隠し、包みこんで降る雪
どの世界にも穏やかな春の雪解けが、一日も早く訪れるよう……
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