卯月の戯れ
京・土御門殿
「もう~!! 天真くんったら、なんてことするのよ!!」
「いや、まさかあそこまで素直に信じるとは思わなかったからよ」
「天真先輩、鷹通さんはエイプリルフールなんて知らないんだから!」
「そうだよ! おかげで私、今日一日、じーっと見られたり、ため息つかれたり、最後には『神子殿は少し剣を習われてもいいのでは』とか勧められたり!」
「僕なんか今日、鷹通さんにかばわれっぱなしだったんだよ!」
「う~ん、意外に信憑性あったのか?」
「「天真くん/先輩!!」」
「わ~った、わ~った! あいつの邸まで行って謝ってくればいいんだろ?」
「もう~~!! どうして私が女装趣味の男なのよ~!!」
「僕が女の子ってどうして信じちゃうんだろ?!」
「なんか心当たりでもあったんじゃねえか?」
「「天真くん/先輩!!!!!!」」
「わ~!! 行く! 今すぐ謝ってきます!!」
* * *
東京・ショッピングモール
「ゆ、幸鷹さん、聞いてください!」
「何ですか、花梨さん」
「あの、わ、私、幸鷹さんの大学の物理学科を受けようと思うんです!」
「……!」
「えへ! な~んちゃっ……」
「一日2時間……いえ、3時間いただければ」
「……え?」
「大丈夫です、来年の1月まで毎日そのくらい時間を割いてくだされば、物理については完ぺきに仕上げて差し上げますよ」
「え? いえ、あの、今日はエイプリ……」
「それに、花梨さんが私の研究分野に興味を抱いてくださるのはとてもうれしいです。一緒に学会に行くこともできますしね」
「……!」
「? どうかされましたか?」
「……あ、あの……。私、多分……すごい駄目な生徒になると思いますけど……。努力だけは、その、一生懸命……」
「ありがとうございます。本当に、嘘から出た実(まこと)になるといいですね」
「はい。…………? え?! ゆ、幸鷹さん、わかってて……!?」
「進路はともかく、私の研究分野について少しだけお話させてください。私が何に夢中になっているか、知っていただけるとうれしいです」
「は、はい! はい! がんばります!」
* * *
鎌倉・有川家のリビング
「あ、あの……譲くん」
「どうしたんですか、先輩」
「あの……わ、私、今日…………ノーブラなの」
「……!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………もう~!! どうして将臣くんが考える嘘はこういう下ネタっぽいのばっかりなのよ~!!」
「かろうじて下ネタじゃねえだろ。それに、今の譲の顔、結構見ものだったじゃねえか」
「ご、ごめんね、譲くん、これでもまだマシなの選んだんだよ!」
「ちょっとだけ幸せな気持ちになったんじゃねえか?」
「ゆ、譲くん……?」
「…………」
「おい、譲?」
「……俺は、全然怒ってませんよ」
「え?」
「だから二人とも気にしないでください」
「おい、お前……!」
「怒ってるよ~! 笑ってるのに怖いもん、譲くん!」
「何言ってるんですか。怒ってませんって」
「怖い! 譲、その笑顔怖いから!!」
「根に持ったりしないから、安心してください」
「「うわ~ん、もうやりません~!!」」
* * *
橿原・忍人の私室
「忍人、ちょっとよろしいですか」
「柊。お前が訪ねてくるとは、珍しいな」
「忍人、落ち着いて聞いてほしいのですが」
「なんだ」
「実は、姫から相談を受けているのです。君について」
「俺について?」
「最近、君が笑うようになったと。特に、姫に対して微笑むことが多いと」
「そ、そうだろうか」
「将軍ともあろうものが、あんなに腑抜けた態度でいいのかと、姫は心配されているのです」
「!!!」
「しかも、見慣れていないので不気味だと」
「…………そうか」
「ですから姫の心の平安を取り戻させるため……」
「柊!! 忍人さんに何言ってるの~!!??」
「これは我が君。可憐なご尊顔を拝し、これに勝る喜びはございません」
「お、俺はちょっと用が」
「忍人さん、待って! あ~、足早い!!」
「傷ついたようですね」
「柊! 那岐と風早のどっちから聞いたか知らないけど、エイプリルフールについていいのは『罪のない嘘』なの!
私が羽毛アレルギーだとか、周りの人に聞こえない話をするのは嫌がってるとか、護衛はやっぱり女の子がいいと言ってるとか、そんなこと言って回るから大変なことになってるじゃない!
サザキとカリガネは羽をすっぽり布に包んで歩いてるし、遠夜はいちいち看板に言いたいこと書いてるし、布都彦は女装してきたし!!」
「おや。みな素直なのですね」
「もう、柊のエイプリルフール参加は金輪際、禁止! 嘘がうますぎる人は駄目!!」
「アシュヴィン殿下にはとっておきのネタがあるのですが」
「絶対にやめて~!!!」
エイプリルフールの嘘は、笑って許せる範囲にしておきましょうね(笑)。
|