笑って笑って

俺、本当はどこかでわかってたんだ。

俺が香穂ちゃんを好きで、その気持ちを隠しきれずにいたとき、柚木が少し寂しそうだったこと。

いつもあんなにたくさんの女子や男子や先生たちに囲まれていても、柚木が心を許すのは俺に対してだけ。

その俺が香穂ちゃんに夢中になったら、柚木も面白くないよな。

わかってたんだ。でも、気持ちは止められなくて。




だから、柚木が香穂ちゃんと二人きりでいるのを見たとき、すごくびっくりした。

香穂ちゃんはとても困った顔をして、柚木はそれを愉快そうに眺めている。

でも、柚木のそんな顔見たのは初めてで……。

俺にさえ見せていない表情を、香穂ちゃんに向けていた。

どこかで……わかっていたんだ。




香穂ちゃんと話す機会が増えるたび、柚木の表情はどんどん変わっていった。

優等生の仮面をかぶらずに、厳しくたしなめたり、意地悪を言ったり、何よりとてもよく笑うようになった。

素顔の柚木はちょっと男っぽくて……でも、変に大人びていなくて、俺には心地よかった。

香穂ちゃんは柚木を、そうやって変えていってくれた。

それは多分、香穂ちゃんも柚木を……だから。




俺、どこかでわかっていたんだ。

そして、哀しいのと同時に、うれしくもあるんだ。

柚木、もっともっと笑ってくれよ。

俺、柚木の笑顔が、とっても好きだからさ。