バレンタインの日に

 



この物語は、モバゲー『百万人の遙か』で2013年に行われた「バレンタインイベント」の後編をリライトしたものです。




<モバゲのバレンタインイベント あらすじ>

なぜか二月になっても京に残って怨霊退治をしているあかね。←

せっかくバレンタインが近づいているのに、京にはチョコがないし……と嘆いていると、あかねのがんばりを認めた龍神が、京のあちこちにチョコのかけらを落としてくれました。

設定へのつっこみはスルーするとして(^_^;)、神気をまとった式神を倒すと、そばに次々と現れるチョコのかけら。

あかねは一緒に京を回っている鷹通には内緒で、それを集めてお菓子を作り、バレンタインデーにプレゼントしようとします。

鷹通との雑談の中でついチョコについて口にしてしまい、自分たちの世界の甘い菓子であることを説明する羽目に。

未知の味に興味を示した鷹通は、「チョコではないですが」と、あかねに「あられ」をプレゼントしてくれます。

一方、あかねは鷹通が仕事の合間に食べられるようなチョコを作ろうと密かに決意するのでした。

バレンタイン当日、図書寮にこもって仕事をしている鷹通を訪ねてみると……。




「……あの、失礼します」

「……神子殿?」

「こ、こんにちは、鷹通さん」

「なぜ、こちらに? 何かあったのでしょうか?」

「い、いえ、そんなんじゃないんです。鷹通さんにちょっとだけ……あの、今、大丈夫ですか?」

「もちろんです。ああ、散らかっていて申し訳ありません。すぐに片付けて白湯でも」

「ほ、本当にすぐに済みますから! あ、あの、これ…っ!」




「……これは……? 何やら、甘い香りがしますが…」

「この間言っていたチョコです! 鷹通さんにもらってほしくて」

「チョコ? しかし、あれは神子殿の世界でしか手に入らないのでは?」

「龍神様がプレゼント……ええと、贈ってくれたんです。京のあちこちにチョコのかけらを降らせてくれて」

「もしかして、それをずっと集めていらしたのですか?」

「え?」

「それで合点がいきました。何かこのところ隠し事をされていたようだったので」

「ご、ごめんなさい! 鷹通さんを驚かせたくて、つい」




「それならば大成功ですよ。まさか神子殿の世界にしかない菓子をいただけるとは。もしかして、神子殿が手作りされたのですか?」

「は、はい。だからちょっと不恰好ですけど……」

「これに勝る贈り物はないと思います。本当にありがとうございます」

「あ……いえ。よかった……です、喜んでもらえて……」

「……? せっかくですから、神子殿もご一緒に召し上がりませんか? あなたにとっても懐かしい味でしょう?」

「い、いえ、私はいいです! 作るときに味見もしたし、それは鷹通さんに……鷹通さんのために作ったものですから、鷹通さんに全部食べてもらいたいんです」

「神子殿……」




「では、遠慮なくいただきます」

「は、はい」

「これは……かわいらしい形ですね」

「ハート型なんです! えっと、その、あ、愛を表す形……かな」

「愛」

「あのっ!! 鷹通さんがお仕事中につまみやすいように小さめに作りました。ほら、疲れたときには甘いものがいいって、この間も言ってたから」

「……確かに甘く……とてもやさしい味です。神子殿のお心が伝わってくるような」

「鷹通さんの口に合ってよかったです」

「……神子殿……一つお聞きしてもよろしいですか?」

「は、はい……?」




「今日、この菓子をお持ちくださったことには何か意味があるのでしょうか?」

「!!」

「不躾な質問で申し訳ありません。ただ、明日私が土御門に伺ったときではなく、わざわざ今日、図書寮までお訪ねくださったのには理由があるような気がしましたので……」

「…………」

「もちろん無理に聞き出すつもりはありません」

「……意味……は、」

「はい」

「う、後ろを向いてもらってもいいですか?」

「え?」

「…………」

「……こう……ですか?」




「今日は……私の世界では、バレンタインデーという特別な日なんです」

「ばれんたいんでー……」

「その、女の子が男の人にチョコを贈って……想いを伝える日……」

「…!!」

「か、感謝だとか、お礼だとか、いろいろな気持ちを」

「……ああ、そうでしたか。わざわざ申し訳ありませ……」

「まだこっちを向かないで!」

「神子殿…?」




「……そして、一番好きな人には、一番心を込めたチョコを贈る……日です」

「…!?」

「そ、それだけです! お邪魔しました!」

「神子殿!」

「あ」

「も、申し訳ありません、いきなり腕をつかんで。ただ、一つだけ教えていただきたいのです。このチョコは……?」

「…………一つしか……それしか作ってません、私」

「!!」

「…………」




「……神子殿の世界に、返歌はないのでしょうか?」

「え?」

「歌を交わすように、いただいた想いを返す習慣は……」

「え…と、来月の十四日にホワイトデーがありますけど……」

「それはどのような日なのですか?」

「男の人が、チョコを贈った女の子にお返しを贈る日です」

「もちろん、一番好きな方には、一番心を込めたものを?」

「はい、たぶん……」




「では、ひと月……。私の想いをしっかりと熟成させてから、あなたに届けさせてください。正直今は、混乱しております。その、もちろんよい意味で」

「鷹通さん」

「うれしさと、愛おしさと……八葉の役目と、そういったものがグルグル回って、今にもあなたを抱きしめてしまいそうです」

「!!」

「ありがとうございます、神子殿。これほどうれしい贈り物は、生まれて初めていただいた気がします。今日、この日にあなたがこの場所まで届けてくださったことに、心から感謝いたします」

「鷹通さん……私もそんなふうに受け取ってもらえてとてもうれしいです」

「さあ、土御門までお送りしましょう。もちろん今は八葉として」

「はい! ありがとうございます」




《完》








 

 
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