七夕四景

 



京・土御門殿(ED前)


「考えすぎなんだよ、鷹通。そんなもの適当にだな」

「しかし、天真殿、学問や仕事は自分の努力で向上させるもの。天に祈願するものではありません」

「んじゃあれだ、大出世しますように、とか」

「それは私の身分で望んでも詮無いこと」

「鷹通、いったい何を悩んでいるのだね」

「おう、友雅、この堅物の相談に乗ってやってくれよ。短冊に書く願いひとつ決められねえんだから」

「せっかく神子殿がお与えくださった機会です。少しでも有効に活用したいと考えるのは当然でしょう」

「ならば鷹通、願いはただ一つではないかな」

「はい?」

「努力でも身分でもどうにもならないこと……恋の成就だよ」

「なっ?!!?」

「天真、短冊にはもちろん、想い人の名も書くのだろう?(ウインク)」

「え、あ、お、おう! そりゃ書かなきゃ天の神様もわからねえからな」

「そ、そ、そのようなことはできませんっ!!」

「おや、差し障りのあるお相手なのかな?」

「そ、そ、そのようなことは決して! そういう友雅殿は何を書かれたのです?!」

「ああ、単純だよ。神子殿の恋がかなうように、とね」

「!!」

「真似るのはなしだよ、鷹通」

「わ、わかっております……」




「あ~あ、ありゃ朝まで悩むぞ、鷹通」

「素直に神子殿の名を書けばいいものを。皆とっくに知っているのだから」

「本人だけは、バレてないつもりなんだろうなあ」



* * *



京・幸鷹の邸(京ED後)


「うわあ、すごく立派な笹ですね! 短冊もたくさん!」

「花梨殿にあちら風の七夕を楽しんでいただければと用意いたしました」

「ありがとうございます、幸鷹さん。この短冊、全部幸鷹さんが書いたんですか?」

「はい、書き始めたら止まらなくなりまして」

「なになに、『京の街路の清掃と側溝の設置』……? す、すごい願い事ですね」

「はい、黄色い短冊は主に都の環境整備に関する願い事です。青が財政、白が農業で……」

「あ、あの……幸鷹さん……?」

「花梨殿も願い事を言っていただければ、適した色の短冊をお渡しいたします。
あらかじめ分類整理しておくほうが、天に願いが届きやすいでしょうから」

「は、はあ……そういうものなのかな…?」

「ああ、優先順位を数字で示したほうがいいかもしれませんね。
フィージビリティを優先すべきか、ポテンシャルの高い順にするか……」

「……幸鷹さんの仕事の虫が少し納まりますように」

「は?」

「私の願い事です。短冊、何色になりますか?」

「……花梨殿」

「だって……せっかくの七夕祭りなんです。もう少しだけロマンチックでも……」

「……ならば短冊は不要です。どうぞこちらに。二人でゆっくり星空を眺めましょうか」

「幸鷹さん」

「今宵、あなたの願いをかなえるのは私だと……そう思い上がってもよろしいですか」

「はい。……幸鷹さんにしかかなえられません、私の願いはいつでも」



* * *



鎌倉・有川家(迷宮ED後)


「七夕って、本来は技芸の上達を願う日なんだよね。ということで、ジャーン!
『お料理が上手くなりますように』」

「うわあ、先輩! 時期を考えてください! 来春受験ですよ?!」

「ったくお前は! 高校入試のときのまぐれが今回も起きるとか思うなよ?」

「え~っ! でも技芸って、ほかに思いつかないよ」

「仕方ない人だな。じゃあ俺はこれで。『先輩に勉強を教えるのが上手くなりますように』」

「あ~……」

「んじゃ俺はこれか。『望美のために試験のヤマを当てるのが上手くなりますように』」

「お~……」

「これだけじゃ足りないですか?」

「何か不満か?」

「だって、結局勉強はしなきゃいけないんだな~って」

「「当たり前だろ/でしょう?!」」

「すみませ~~ん」



* * *



出雲・天鳥船(ゲーム中)


「忍人さんは書かないんですか? 梶の葉と筆、持って来ましたよ」

「二ノ姫。俺には不要だ。あの騒ぎに巻き込まれたくなくてここまで来たんだ」

「七夕のお祝い、気に入りませんでしたか?」

「別に祝うのは構わん。君も懐かしいのだろう?」

「向こうでやっていたのとはちょっと違うんですけど。
日本では古来、こうやって梶の葉に願い事を書いて川に流したものだって、風早が教えてくれて」

「……君は、何を書いたんだ」

「もちろん、中つ国の再興とみんなの幸せです」

「ほかの願いにしろ」

「え?」

「それは天に祈ることじゃない。君が自分でかなえることだ」

「………」

「二ノ姫?」

「……わかっているけれど、願わずにはいられないことってないですか?」

「………」

「……ごめんなさい。私、もう戻り……」

「なくはない」

「え?」

「それが弱さにつながらない限り、願うことは止められない。俺が言い過ぎたようだ」

「忍人さん……」

「一枚もらおう」

「あ、はい」

「……勝手に書いて勝手に流す。君がそこで見ている必要はない」

「わ、わかりました。じゃあ、失礼します」




去っていく千尋の後姿を見送りながら、忍人の筆が描き出した願いは

「君の願い事がかないますように」




「かなえるのは、俺でありたい……」

低いつぶやきが、誰もいない夜の闇に消えた。








時代や場所は変わっても、星を見上げて願う気持ちは同じ。
愛する人が幸せで、いつも笑っていてくれますように……。



 

 
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