再会のあと ( 1 / 4 )

 



朝餉の支度をしていた譲の元に、突然飛び込んできた望美は怯えきっていた。

震えが止まるまで胸にしがみつき、ようやく顔を上げると自分の恋心を告白する。

何もかもが夢のようで、互いの気持ちを確かめあった後も、譲には一連の出来事が信じられなかった。

だが確かに、今、彼女のぬくもりはここにある……。



* * *



長い時間腕の中にいた望美は、ようやく身体を離し、「邪魔してごめんね」と謝った。

「邪魔なんかじゃ……! 
それより先輩、もう一度部屋に戻ったほうがいいんじゃないですか? 
ものすごく疲れているみたいだし…」

譲の言葉を遮るように首を振ると、

「ううん。譲くんが嫌じゃなきゃ、ここで朝ご飯の支度するの見ててもいい?」

とまっすぐな眼差しで尋ねる。

「俺はもちろん……。でも、本当に大丈夫ですか?」

大きくコクンとうなずくと、望美は板敷きの床に上がり、柱にもたれて座った。




視線が痛いほど感じられる。

まるで、一瞬でも目を離すと消えてしまうかのように、望美は譲の一挙手一投足を見つめていた。

時折目を向けると、びくんと驚いた後、泣きそうな笑顔を見せる。




(……あんなに怯えるなんて、いったいどんな夢を……?)

野菜を刻み、煮立った湯に入れながら譲は思いを巡らせた。

(まるで先輩の前から俺がいなくなったような……
いや、いなくなったというより……)

手が突然止まる。

(……まさか…!?)




勢いよく振り向くと、望美は床に倒れていた。

緊張の糸がついに切れ、くずおれるように眠ったのだろう。

頬には涙の痕が幾筋もついていた。

(……まさか………あなたも、あの夢を……?!)



* * *



「望美さん?! いったいどうしたんですか、譲くん」

望美を抱いて部屋に向かう途中、出会った弁慶は足早に近づいてきた。

「風邪? ……いや、そうじゃないな。これは……?」

尋常ではないやつれ方に、弁慶も声を失う。

昨夜、ごく普通に床についたはずの望美が、こんなに面変わりすることがあり得るのだろうか。




「今はとにかく神子を休ませなさい」

いつの間に現れたのか、譲の後ろでリズヴァーンが言った。

「あ、そ、そうですね、リズ先生」

「僕は薬湯を用意しましょう」

弁慶が足早に去ると、リズヴァーンは譲を正面から見つめた。

そして、低い声で告げる。

「譲、神子が目覚めて口にする言葉は、すべて真実だ」

「え?」

さらっと望美の髪を撫で、寝顔を辛そうに見つめる。

「内容がどうであれ、信じなさい」

「………わかりました…」

譲の返事にうなずくと、背中を向けて去って行く。

譲も無言でそれを見送った。



* * *



朔の手を借りて着替えを済ませ、ほとんど意識のない望美になんとか薬湯を飲ませると、枕辺には譲が一人残った。

一心に眠る望美の呼吸は深く、顔色も幾分かよくなっている。

それでもやつれを隠せない頬に、譲はそっと触れた。




(何もないよ、まだ何もない!)

激しく震えていた細い肩。

自分を必死に見つめる瞳。




(夢が伝染る……なんてことがあるんだろうか…)

譲は先ほどの考えをまた辿り出した。

望美があの夢を見たのだとしたら、激しく怯えていたのも腑に落ちる。

もちろん、望美が自分をそこまで大切に想っていてくれたとしたら……だが。




(私、譲くんのことが好きだよ。幼なじみという意味でも、仲間という意味でもなくて)

ぽっと頬が熱くなった。

(あ、そうか。俺、さっき告白されたんだ)

あまりにも突然だったので、いまだに実感がない。

(一緒に幸せになろうよ、ね?)

赤い目をして、それでも精一杯にっこり笑った望美。




(……本当に? 俺なんかでいいんですか、先輩?)

眠る横顔に、心の中で問いかける。

ほんの子供のころから、ひたすら見つめ続けてきた愛しい人。

(どうかもう一度目を開いて、俺を好きだと……言ってください)

望美がかすかに身じろぎして、譲の手に頬を寄せた。

まるで呼びかけに応えるように。

譲は思わず微笑むと、大きな手のひらで望美の頬を優しく包んだ。