2010/06/06
『メモリーズ5』千秋楽


日曜日に千秋楽を迎えた『メモリーズ5』
根本くんが主要な役(パンフ等では主役扱い)で出演したというだけでなく、劇としてもとてもいい出来でした。
ということでレポートしてみます。
DVDが発売されるので、それまで内容を知りたくないという方は、以降は読まないようご注意ください。


冒頭。
筒井康介(根本くん)は亡くなった姉(13歳違い)の子供、達彦千秋の面倒を見ている。
達彦に「姉とは幼いころに離れてしまったので、思い出がほとんどない。話してほしい」と頼む康介
ところが、達彦は不倫の末に自分たちを産み、貧乏を味わわせた母を恨んでいて、「思い出なんかない」とつっぱねる。

康介の援助で入った薬学部も中退し、荒れていく逹彦
ある日彼は康介に、「そんなに思い出がほしいなら、記憶を買わないか?」と持ちかける……。


一方、地下組織メモリーズは新人メンバーがやってくるということでそわそわ。
この組織は、不幸な記憶をもって亡くなろうとしている人に別の記憶を与え、「いい人生だった」と悔いなく旅立ってもらうサービスを行っている。

記憶の入れ替えは、超能力少年、が舞いながら行うが、その能力を高めるためにメモリーズメンバーが激しいダンスで場を盛り上げる。

リーダーの高村は、警察官を父に持つ妻にはこの仕事を隠していたが、彼女が着替えをもってこちらに向かっていると聞いて大パニックに。
急遽、地下組織を工事現場に偽装し、妻をごまかそうとする。


康介は、達彦の仲介でメモリーズに姉の記憶を入れてもらうことを決意する。
ただし、メモリーズのサービスは瀕死の人間に対してだけ。
逹彦は、今はナースをやっている妹の千秋に薬局のカギを調達させ、康介を深く眠らせるための薬を調合する。


眠りについた康介を連れて行ったメモリーズは、まさに偽装工作の真っ最中!
工事現場スタイルのメモリーズメンバーに面食らいながら、記憶の入れ替えを強く迫る逹彦
実は彼は、メモリーズに渡す料金に200万円も上乗せした金額を康介に払わせていた。
逹彦が用意した偽の診断書は無事受理され、いよいよ記憶の入れ替えが始まる。

ところが、新しく入れる記憶のプログラミングに不備があり、康介の中には姉の記憶ではなく、なぜか坂本龍馬の記憶が入ってしまって……!!
(いくらなんでも間違え過ぎだろ)


と、シリアスにストーリーを書いていくと何だかとんでもないことになっちゃいますが、舞台はとっても真っ当で苦悩に満ちた筒井家の三人のシーンと、おふざけ満載のメモリーズのシーンを交互に見せる構成になっていて、これがうまく緊張と弛緩をもたらしていました。

また、メモリーズメンバーの今時のダンス(とってもかっこいい)の中に最後に登場するが、日本舞踊を舞うのもなかなかの趣向。
私は基本的に、ストーリーと余り関係なく歌ったり踊ったりし出す今時の演出(最初からミュージカルならまあ許すんですが)が苦手なんですが、この劇にはダンスがあるからこそ表現できるシーンが数多く、とても楽しむことができました。

で、根本くん
最初からドシリアスで、しかも逹彦千秋の叔父にあたるので、「おっさん」「おじさん」呼ばわりされて、ファン的にはかなり抵抗がありました(笑)。

が、この坂本龍馬の記憶が入ってからは圧巻!
あやしげな土佐弁で細かいことを気にしない……というか、気にしなさすぎる大雑把龍馬をのびのびと演じて、縦横無尽のコミカルな殺陣も冴えまくっていました。

本人に「自分は龍馬だ」と完全に信じ込ませないと、もともとの記憶に戻すことができない……というので、メモリーズメンバーも仮装して岡田以蔵(の親戚?)になったり、新選組になったり、大騒ぎ。
特に新選組との対決シーンは笑っちゃいました。
このためのキャスティングか!!

龍馬の記憶を、もとの記憶に入れ替えるところからは、再びシリアスなお芝居へと戻ります。



「この人の記憶をしっかりと見ていなさい」と高村に言われて、渋々承知する逹彦
彼の目の前で、康介の過去が再現される。

3歳のときに両親が交通事故で亡くなり、裁判所命令で施設へ。
育てられなくてごめんなさいと謝る16歳の姉。
施設で頑張って学業に励む康介を、姉は影から見守り続ける。

やがて報われない恋に落ち、二人の子を授かる姉。
貧乏な暮らしの中、彼女は不治の病に倒れる。
病院に駆けつけ、「なぜ今まで知らせてくれなかった」と尋ねる康介に、「会ってしまったらすがってしまうから。本当はあなたをちゃんと迎えに行きたかったのに」と謝る。

二人の子どもを託し、曲がった道に入りそうになったら助けてくれるよう頼む姉。
涙ながらにそれを引き受け、「死なないで!」と懇願する康介
永遠の別れ。

達彦の知らないところで、康介千秋に会って、自分がこれからメモリーズに行くことを告げる。
「曲がった道に行きそうになったら、助けると姉さんに約束したから」
失敗すると今までの自分をすべて失うかもしれないけれど、やっと得ることができた家族のためだから。

康介がすべて承知の上で、自分が与えた薬を飲んだと知る逹彦
やがて目覚めた康介は、姉の記憶が自分に入らなかったことを聞いて落胆する。
「もっともっとお母さんの思い出を話すから」と慰める千秋に礼を言いながら、「でもやっぱり、逹彦からも聞きたいな。駄目かな」と逹彦を見つめる康介

感極まった逹彦は、ようやく康介に対してうなずく。
「俺が曲がりそうになったら、助けてくれるんだろう?」
とつぶやいて。



この終盤の部分はもう泣かされまくりました。
康介が幼いころの記憶は、メモリーズメンバーが交互にダンスを交えながら演じ、瀕死の姉と再会する場面から本来のキャストへ。
「もっといろいろ話したいことがあるんだ! 姉ちゃん!!」
と叫ぶ康介は、本当にボロボロ泣いていて、見ているほうも涙が止まらない!
全部わかっていて、逹彦を見つめるまっすぐな眼差しも胸に突き刺さりました。


スラップスティック的なコメディから、涙を搾り取るようなドラマまで、2時間ちょっとの上演時間の中に詰め込まれていて、それぞれが矛盾することなく相乗効果を上げているのが本当にすごかったです。

スリッパでパッコンパッコン叩くベタなギャグもいちいちおかしくて、気づくと泣いて笑ってものすごく楽しんでいました。

やっぱり演劇って素晴らしいな。
劇場に足を運べなかった方は、ぜひDVDでご覧ください。
後悔なんてさせないぜ!(笑)