願い事は… ( 1 / 2 )

 



「はい、鷹通さん!」

満面の笑顔とともに、鷹通の前に「何か」が差し出された。

「あ、ありがとうございます???」

微笑んで礼を言いながらも、「何か」の正体がわからず鷹通はそれをじっと見つめる。

フワフワと柔らかそうな丸い菓子?の中心部がくりぬかれ、そこに立てられた数本の蝋燭に火が点されている。

まわりを飾るのは、冬の時期には貴重な花々。

菓子を載せた高杯にも、色鮮やかな組紐や布で作った造花が添えられ、全体が円錐形の飾り物のようにも見える。




「これは……」

「へええ、こう来たか、詩紋。これ、食べられるのは上の蒸しパンの部分だけだろ?」

天真がひょいと顔を出して、面白そうにいろいろな角度から高杯を眺めた。

「うん! ウェディングケーキにヒントを得たんだ」

「すごいね、詩紋くん。最高のバースデーケーキだよ!」

あかねが輝くような笑顔で微笑む。

「鷹通さん、これは、鷹通さんのお誕生日をお祝いするためのお菓子なんですよ」

「私の……」




「誕生日」というものの説明は、あらかじめあかねから受けていた。

彼女たちの世界ではとても大切だというこの日を祝うため、今日は土御門殿に八葉も勢揃いしている。

鷹通は祝ってもらうことよりも、あかねや詩紋や天真が楽しそうなのがうれしくて、柔らかく微笑んだ。

「詩紋殿、素晴らしい品をどうもありがとうございます」

「ううん、本当はスポンジケーキが焼きたかったんだけど、さすがに火加減が難しくて」

「あの廚でスポンジケーキが焼けたら、おまえ、サバイバル・パティシエになれるぜ」

「天真くん、意味わからないよ!」

三人が、三人にしかわからない言葉で明るく笑いあう。

温かく、穏やかな雰囲気が心地よかった。




「おやおや、神子殿。私たちは仲間はずれかい? 寂しいことだね、鷹通」

「と、友雅殿! そのようなことは!」

慌てて止めたが、遅かった。

あかねは見る見るうちに表情を曇らせ、「鷹通さん、ごめんなさい!」と、大きな瞳を潤ませて駆け寄ってくる。

「どうかお気になさらないでください、神子殿。私は何とも思っておりませんから」

「でも……」

「あ、あかねちゃん、蝋燭が燃え尽きちゃうよ!! みんなこっちに集まってください!」

詩紋の切羽詰まった声が局に響いた。




「ええと、じゃあ、鷹通さん、私たちが歌い終わったら、願い事を頭に浮かべながら蝋燭の火を吹き消してくださいね」

あかねが鷹通の瞳を覗き込みながら言った。

「はい、神子殿」

「君の願い事なら、神子殿に直接言ったほうが叶うのではないかい、鷹通?」

「道理だ」

「友雅殿と泰明殿はしばらく口を閉じていてください」

頬を染めながら、鷹通はピシリと釘を刺す。

「?」を浮かべるあかねに、イノリがじれたように言った。

「ほら、さっさと歌始めようぜ! 俺、腹減った! なあ、頼久?」

「わ、私はそのようなことは……」

「では、僭越ながら」と、永泉が笛の音を奏で始める。

あらかじめみんなで練習したらしい誕生日の歌が、局に、簀子縁に、雪の積もった庭に、楽しげに流れた。




鷹通は自分を囲む人々の顔を眺めながら、

(私の願いは、この素晴らしい方たちが皆それぞれに幸福になられること。それしかありません)

と、心の中でつぶやく。

「はい、鷹通さん、消して!」

あかねの声で蝋燭に息を吹きかけようとして、ふっと疑問が頭をかすめた。

(……今は、冬? なのになぜ神子殿たちが京に……?)

その途端に、目の前のすべてが白く霞み、まぶしい光が鷹通を包んだ。