蔵の中 ( 1 / 4 )

 

「譲くん、どうしたの?」

蔵の外から聞こえる望美の声に、譲は顔を上げた。

高窓から差し込む日差しの中、ほこりがキラキラと舞っている。

積み上がった荷物を動かせば、こんなものではすまないだろう。

いったん手を止めて、蔵の外に踏み出す。

そこには明るい陽光を浴びた望美が、目を丸くして立っていた。




「すみません、蔵の片付けをしていて」

ほこりよけのタオルとマスクをずらして、譲はようやく声を出した。

「え〜、ひとりで? 大丈夫なの? 結構ギッシリ荷物が詰まってたよね」

かくれんぼして遊んだ記憶をたどりながら、望美が言う。

「ええ。中身を全部どうにかするわけじゃありませんから」

「本当?」

蔵の入り口の階段に、二人は並んで腰を下ろした。




「町内会のフリーマーケットに出せる物を探したいって、うちの母親が言うもので」

譲が、汗をぬぐいながら説明する。

「おばさまが? そうか、町内会のお祭り、もうすぐだものね」

「俺は屋台で料理することまで決まってるらしいです」

譲が苦笑するのを見て、よし! 絶対その屋台には行くぞ! と、望美は決意した。

それにしても……

「蔵の中って、将臣君のほうが得意かと思ってた」

「何か掘り出すのは兄さんのほうがうまいでしょうね」

「?」

不思議そうな顔の望美に、譲は説明する。

「俺が命じられたのは、片付けです。何がどこにあるかきちんと整理して、そこから兄さんが値打ち物を探し出すと言う役割分担で」

「え〜!? それって譲くんが損してない?」

口をとがらせた望美に思わず微笑みながら、「得意不得意がありますからね」と、譲は答えた。




「う〜〜ん」

何だか面白くない…という顔でしばらく考えた後、いきなり望美が立ち上がる。

「よし! 私も手伝うよ、片付け」

「え?! 先輩は整理整頓、超苦手じゃないですか!」

「大丈夫! 譲くんが指示してくれればきっとできるよ。ねっ?」

満面の笑顔で言われて、逆らうことなどできなかった。

着替えてくるね〜!と駆け出した望美の後ろ姿を見送りながら、譲は小さく溜め息をつく。

もっとも、顔には微笑みが浮かんでいたが。


* * *


「じゃあ、俺が運び出したもののほこりを払ってもらえますか」

上下ジャージにマスクとスカーフと軍手という、完全装備で意気込む望美に譲は言った。

「え? 私は蔵の中に入らないの?」

「中でほこりを払うと大変なことになりますから」

蔵の外なら、物を壊したり落としたりつまずいたりもしないし…というのは譲の心の中だけの声。

釈然としない望美をよそに、蔵の奥にある物から、手際よく外に運び出して行く。

「あ! ねえ、譲くん、これって…」

蔵の外から望美の声がした。

始まったぞ…と思いつつ、譲は薄暗がりから庭に出る。




片付けが苦手な人間の共通の特徴として、整理中に整理する対象物の鑑賞を始めてしまう --ということが挙げられるが、目の前にその典型が座ってはしゃいでいた。

「ねえ、これ、おばあさまが使っていたお手玉だよね。まだまだ使えるよ、ほら」

古びた木箱の中から取り出した色鮮やかな布の塊を、空中に投げて数え歌を口ずさむ。

(やれやれ、この調子じゃいつになったら終わるのか…)

譲は心の中で溜め息をつきながら、宙に輪を描くお手玉を眺めていた。

そのうち、ふとあることに気づく。

「先輩、ちょっといいですか?」

「え?」

望美の手からお手玉を受け取ると、小豆を包む極彩色の布をじっくりと見つめた。




「譲くん…?」

「やっぱり…そうか…」

望美の手に一つ渡す。

「これは多分……祖母があちらの世界から持ってきた布でしょう」

「え?!」

「俺にも詳しいことはわからないですけど、最近の機械を使った織りとは明らかに違いますよ。九郎さんや景時さんが正装した時に身につけてた着物の質感に近い。やっぱり祖母は……星の一族だったんですね…」

遠くを眺めながら、感慨深げに譲が言った。

その横顔を望美が不安げに覗く。




「あの……前からちょっと気になってたんだけど…」

望美の声の暗いトーンに気づいて、譲は視線を戻した。

「何ですか?」

気まずそうに目をそらし、二、三歩距離を置いてから言う。

「星の一族って……神子の世話をする人たちだよね。その……譲くんが…私とつきあってくれるのも…やっぱり……」

そこまで言ったところでいきなり腕をつかまれた。

望美はあっと言う間に蔵の中に引っ張り込まれ、気づくと譲の腕の中で口づけられていた。

初めてのときよりも、少し乱暴で、少し情熱的に。




やがて唇が離れると、望美はゆっくりと目を開いた。

怒ったような顔で、譲がまっすぐ見つめている。

「…譲く……」

もう一度、引き寄せられて唇が重なる。

「ゆ……わ、わかった、ごめん!」

望美は耳まで真っ赤になって降参した。

「…星の一族は神子にキスしません……多分」

はあっと大きい溜め息をついて、譲が望美の肩に頭を預ける。

「どうして先輩は……」