「はあ。明日でようやくあの趣味の悪い遊びから解放されるのか」

大きなため息とともに譲が言った。

それを聞きつけた望美は、

「そんなに嫌だった? なんか最近は板についてきたのに」

と尋ねる。

「先輩、あんなのただの嫌がらせですよ。誕生日プレゼントが聞いてあきれる」

「そうかなあ〜」




 

時限性ツインズ(1/4)

 


「う〜〜ん〜〜〜、譲の誕生日に兄貴の俺が何も贈らないわけにはいかねえよなあ〜〜」

将臣が苦悶の表情を浮かべてうなる。

「別にいいよ。誕生日当日にはまだ兄さん、合流していなかったんだし、今だって旅の途中だし」

あっさり受け流すのは譲。

熊野で、将臣が望美たちの一行に加わってから数日がたっていた。

「今年の譲くんの誕生日、一緒に祝えなかったね」という望美がもらした一言に、将臣がうなりだしたのだ。

今も勝浦の宿の床に寝転んで、頭を抱えている。

「そりゃそうだが、だからって何もしないのもなあ〜。う〜〜ん」

「でも、この調子で熊野川の氾濫が治まらないと、兄さんの誕生日もここで迎えることになりそうだな」

「あ、そうだね。お祝い、どうしようか」

譲と望美が将臣の誕生日の相談を始めたので、「お、おい、俺の誕生日はどうでもいいんだよ!」とあわてて止めた。




「ここには頼みの蔵もないしなあ〜(←)。よし、物はあきらめた! 譲、今年のプレゼントはこれだ! 今日から俺の誕生日まで、タメ口OK」

「はあ? 今だって別に敬語なんか使ってないだろ」

「でも『兄さん』って、呼ぶだろうが。今日からは『将臣』でいいぜ」

「な、何でそんなこと!」

「俺の誕生日までは同い年になるんだから構わねえだろ? 双子だと思えばいいんだよ」

「ちょっと待てよ! 向こうにいたときならともかく、今は兄さんと俺の歳の差、もっと開いてるじゃないか」




「!!」

「あ……」

「譲くん……」




「……そう……だよな。……お前たちと違って、俺は一人で変わっちまったからな……」

寂しそうに笑いながら目をそらす。

そんな将臣の様子を見て、譲は焦りまくった。

「そ、そういう意味じゃ……! 兄さんは兄さんだよ! あきれるくらい何も変わってないよ!」

「でも……同い年なんて思えないんだろ?」

「そんなことないよ!」

「…本当か?」

「本当だよ!」

「よし!!」

将臣は、突然勢いよく立ちあがった。

「じゃあ、俺の誕生日プレゼント、ノープロブレムだな。しっかり受け取れよ!」

親指を立ててウインクされ、譲は「また兄さんにやられた……」と、落ち込んだのだった。



* * *



翌朝。




「ねえ、九郎さんみたいに軽く『将臣』って呼べばいいんじゃない?」

「九郎さんは兄さんより年上ですから」

「あ、ヒノエくんも『将臣』って呼ぶよね」

「あいつは単に無礼なだけで」

「そういえば私も、誕生日まで譲くんと同い年なんだけどな〜」

「先輩、これ以上俺の悩みを増やさないでください」




望美に励ましなのか追い打ちなのかわからない言葉をかけられた後、身支度を済ませた譲は、宿の前庭に出た。

いっせいに八葉の視線が集まる。

(! みんな知ってるのか)

「よお、譲。今日もあっちいな〜」

毎日必ず顔を出すわけでもない将臣が、今日は庭の真ん中で上機嫌に手を振っていた。

(ったく、みんなして面白がって……!)

心の中で小さく舌打ちした後、譲は思い切って口を開く。

「遅刻魔の癖に今日は早いんだな、…………将臣!」

「おおっ!!」と、どよめきが上がるのを無視して、夏空の下、歩き始めた。