発熱2 (1/2)



コンコン。

昨日の譲の真似をして、控えめにノックをする。

返答はなし。

そーっとドアを開けると、少し苦しそうな寝顔が見えた。

隙間に身体を滑りこませて室内に入る。

後ろ手にドアを閉めても、寝息のリズムに変化はない。

「ごめんね、譲くん。私の風邪、うつしちゃって……」

うつした過程を思い出して頬を染めながら、望美はそろそろとベッドに近づいた。




長い睫毛。

汗で額に張り付いた前髪。

少し赤みがかった頬。

眼鏡をかけていないせいで、いつもより印象が幼い。

子供の頃、一緒に昼寝をして目覚めたとき、この顔が横にあったのを思い出す。

(あんまりかわいくて、ほっぺにキスしちゃったっけ…)

譲には言っていない、望美の秘密だ。

もっとも、将臣にはしっかり見られて、後でずいぶんからかわれたが。




(大きくなっちゃったなあ……)

昔、将臣やその他の「いじめるもの」から譲を守るのは望美の役目だった。

涙を拭いて慰め、手をつないで帰ったこともある。

それが、いつの間にか広い背で望美をかばい、命を賭けて守ってくれる存在になった。

端正な横顔に見とれながら、異世界での、迷宮での譲との日々を思い返してみる。

いつでも、どんなときでも、彼は心から望美を大切に思い、励ましたり、叱咤したりしながらそばにいてくれた。

譲なしで異世界に飛ばされていたら、多分、最初の怨霊との闘いの時点で命を落としていただろう。

あのとき、何の迷いもなく盾になってくれた彼。

気づくと、望美の視界は涙でぼやけていた。




「…先輩…?」

眠りの淵から戻って来た、少しかすれた声が聞こえる。

夢見心地で顔を向けると、はっと息を呑む音がして譲が飛び起きた。

「どうしたんですか?! 学校で何かあったんですか?」

望美の両腕をつかんで、真剣な顔で問い掛ける。

自分の頬が濡れているのだと気づいて、望美はあわてた。

「ち、違うの。譲くんの顔見ているうちにいろいろ思い出しちゃって…」

ゴシゴシと手の甲で涙を拭う。

「…!」

望美の意外な言葉に一瞬絶句した譲は、ふっと一息ついてから

「そんなにこすらないで。赤くなっちゃいますよ」

と、そっと望美の手を包んだ。




次の瞬間。

触れられた望美の顔が一気に赤くなる。

「え…」

譲は反応に驚いた。

これではまるで……。

「う、うん、そうだね」

無理矢理笑顔を作る望美。

それをまじまじと見つめてしまう。

先輩、それではまるで……。

「ゆ、譲くん…?」

「……お見舞いに来てくれたんですね」

譲が微笑むと、さらに望美の顔の朱が濃くなった。




「私が風邪、うつしちゃったからね」

あらぬ方向に目を泳がせながら、望美が言う。

「……………」

「………?…」

譲が無言なのを不審に思って振り向くと、いきなり腰に腕を回され、ベッドの上に引き上げられた。

「譲くん…?!」

後ろから柔らかく抱き締められる。

「ど、どうしたの…?」

「おかしいですよ、先輩」

耳元で、少し低めの譲の声。

熱い息がかかって、望美は全身が真っ赤になっていくのを感じた。

「な、何が…?」

「何だか、先輩……」

「…?」

「俺のこと好きみたいです」

カーッと全身の血が頭に昇る。