はじまりの物語 ( 1 / 5 )

 



スモルニィ女学院からやってきたばかりの少女は、見るからに緊張していた。

女王補佐官ディアは、かつての自分の姿を重ね合わせながら微笑む。

「土の曜日までは民の願いもわかりませんから、今週はあなたの好きなようにお過ごしなさい、アンジェリーク」

「はい。では、守護聖の皆様方に順番にごあいさつをしてみます」

金の髪の少女は、ガチガチになりながらも笑顔を浮かべた。

「そうね。それはいいことだわ。……個性的な人たちですから、ちょっと驚くかもしれませんけどね」

「はい……?」

ディアはにっこり笑うだけで、それ以上は説明しなかった。




アンジェリークが最初に訪れたのは、守護聖の首座でもある光の守護聖、ジュリアスの執務室。

おそるおそる扉を開けた少女を、ジュリアスは明るく迎え入れた。

「早速育成とは勤勉なことだな、アンジェリーク」

「いえ、まだわからないことばかりで……ご迷惑をおかけします」

「最初から何でもできる者などいない。あまり委縮せぬほうがよい」

「は、はい。ありがとうございます」

アンジェリークの求めに応じ、エリューシオンへ光のサクリアを送ることを約束する。

礼を述べて立ち去ろうとする後ろ姿に、ジュリアスは声をかけた。

「待て。次はどこに行くつもりだ?」

「え?  あ…の、闇の守護聖様をお訪ねするつもりですが」

一瞬の沈黙。

「そうか……。できれば……いや、よい。いつかはそなたも向き合わねばならぬ相手だ。無理に遅らせることもあるまい」

「?」

「女王候補としての自分に誇りをもって、何事にも立ち向かうがよい」

ジュリアスも、それ以上は語ろうとしなかった。




闇の守護聖、クラヴィスの執務室はすぐ隣にある。

神々しくきらびやかな雰囲気をもつジュリアスの執務室と対照的に、部屋の前の空気はひんやりと冷たく、人の気配が感じられない。

暗い色の扉を静かに押し開いた。

「あ、あの……失礼します」

闇の中、水晶球の光にぼんやりと照らされた人影に声をかける。

「……何か用か」

低い、表情のない声。

おずおずと執務机の前に歩み寄った。

「育成のお願いに参りました」

「……ご苦労なことだな」

「え?」

ふう……っと深いため息が聞こえる。

「……望みは?」

「あの、エリューシオンに闇の安らぎを少しお送りください」

「……承知した」

「ありがとうございます」

ペコリと頭を下げると、またため息。

「……用が済んだのなら帰れ」

「は、はい、失礼しました!」

急いで執務室の戸口まで駆け戻る。

重い扉をそっと閉めると、壁にもたれて大きく深呼吸した。

まだ手が震えていた。

(な、何なの、この緊張感は!)

闇に閉ざされた扉を、アンジェリークはもう一度振り返った。



* * *



「やあ!  君の手助けができてうれしいよ!」

「頑張っていますね。あまり気を張らなくてもいいのですよ」

翌日訪れた風の守護聖ランディと、水の守護聖リュミエールは、それぞれに明るく、優しくアンジェリークを迎えてくれた。

「よお、お嬢ちゃん。来週からは俺のところだけに通ってもいいんだぜ」

「アンジェ、遅いよ!  ぼく、ずーっと待ってたんだから」

悩殺ウインクを繰り出す炎の守護聖オスカーと、頬を膨らませて拗ねる緑の守護聖マルセルには面食らったが、どちらからも好意が感じられて胸を撫で下ろす。

「ったく、女王になりたいなんて気が知れねえぜ。とっとと家に帰れってんだ」

「ヤッホー☆ ちゃんと寝てるかい?  食事と睡眠は美しさのキ・ホ・ンだからね!」

つっけんどんな鋼の守護聖ゼフェルにはなぜか親しみを感じ、女友達のように接してくれる夢の守護聖オリヴィエには元気と笑顔を分けてもらった。

「あ〜、お疲れ様ですねえ。私で最後ですか? お茶でも飲んでゆっくりしていってくださいね〜」

地の守護聖ルヴァの執務室を訪れるころにはかなり緊張もほぐれ、この多彩で華やかな集団が好きになり始めていた。

温かなもてなしに感謝して部屋を後にすると、アンジェリークは一人つぶやく。

「来週になれば、民の願いに従って動くことになるのよね。今日の午後はどうしようかな。またジュリアス様のところに……?」