現代人トーク1 ( 1 / 2 )

 



「譲…だったよな、おまえ」

少し遠慮がちな声に振り返る。

「ああ。きみは天真だよな。あかねと同じ世界の」

ランニングシャツの上から着物を羽織った、明らかに現代の面影を残す姿を見ながら譲は答えた。




現在、天界を巡る八葉を率いる形になっているのは、初代の龍神の神子、元宮あかねだ。

天真は、詩紋とともにあかねと同じ世界からやってきたと聞いている。

「…ちょっと話があるんだ。いいか?」

「? ああ」

何やら目を合わせづらそうにしている天真に導かれて、南斗宮の庭に出た。

椅子や卓がしつらえられている四阿に二人で向かう。




「…で、話って?」

陶製の椅子に腰を下ろすと、譲は尋ねた。

「……あの……おまえ、自分の神子に惚れてるんだろう?」

「……!!!!???????」

真っ赤になって立ち上がろうとする譲の手を天真があわてて引っ張る。

「わ、悪い! いきなり核心ついて。いや、俺もなんだよ、俺、あかねに告ったんだ」

「……あかねに…?」

天真の必死な顔を見て、譲はもう一度椅子に腰をかける。

「どういうことだ?」




まっすぐ見つめられて、天真はコホンと軽く咳払いをした。

「……あかねは、向こうの世界でいろいろあって荒れてた俺を、まっとうにしてくれたっていうか、普通の高校生に戻してくれたんだ。本人は無自覚だけどな」

「それで」

「そ、それで…多分、向こうにいるときから多少は……その、好き……だったと思うんだが、こっちにきて、自分と縁のない世界のために一生懸命になっているのを見て……」

「…好きだって自覚したんだ?」

「そ、そういうことだ」

目をそらしたまま天真が答える。




「…そうか…。で、もう告白したんだな?」

「…ああ。でも何か、いろいろバタバタしているうちにうやむやになっちまってなあ……」

天真がいきなり卓上に身を乗り出す。

「なあ、譲、龍神の神子は恋愛しちゃいけないのか? っていうか、ものすご〜く致命的に鈍いのは、龍神の神子の特性なのか??」

「!!」

目を丸くして天真を見つめた後、しばらくして譲は言った。

「……やっぱり鈍いんだ…」

「鈍いんだよ! なんかこっちに来てからさらに磨きがかかった気がするぜ」

「八葉に囲まれてるからな…」




ふうっと二人同時にため息をつく。

「俺なんか、同じ世界から来て、同じ邸に住んで、毎日会ってるんだぜ。普通、もう少し進展しないか?」

「…俺なんか、毎朝寝所まで起こしにいってるんだ。食事も弁当も作ってるし」

「し、寝所…?!」

はあっとさらに深いため息を譲はつく。

「天真。きみはそれでも恵まれてる。俺は物心つく前からの幼なじみで、おまけに年下だから、先輩にとっては家族。完全に弟扱いなんだ」

「……あー…それは痛い」

天真はがっくりと肩を落とす譲を、気の毒そうに見つめた。




「で、おまえは告ったのか?」

「そ、そんなことできるわけないだろう!」

譲がガバッと顔を上げる。

「……だって、周りの奴らにダダ漏れじゃん? あの超ニブいあかねだって気づいてたぜ」

「!!」

絶句した後、再びがっくりと肩を落とす。

「…それでも先輩にだけは伝わらないんだ」

「……壮絶なニブさだな」

「神子の宿命だろ」

二人の気持ちとは裏腹に、心地よい春風が四阿を吹き抜けていく。